神奈川県民の警察官 横顔

田浦署刑事課強行盗犯係・江ばた昭徳警部補(54)

 ■捜査には情理を尽くす

 30年以上にわたって県警の警察官として過ごしてきたが、その口調のなかには今でもかすかに、温かみのある東北なまりが顔をのぞかせる。「捜査には情理を尽くす」をモットーに、事件の解決に奔走してきた。

 高校を卒業後、地元の秋田県で4年間の民間企業勤務を経験し、巡査を拝命したのは22歳のときだった。公務員の安定性にひかれたことが転職のきっかけだったが、凶悪犯を追う強行犯係の先輩が難事件に立ち向かうさまを目の当たりにして、意識は一変する。

 「あんな仕事に携わりたい」。自ら志願して、平成4年以降は一貫して強行犯係を担当してきた。携わったのはどれも重大事件ばかりで、事件当時のことは胸に深く刻み込まれている。

 少女が男から性的被害に遭った事件では、防犯カメラに写り込んでいた加害者の車の一部を手がかりに、半年をかけて約800台を照会。街で見かけた車両のホイールに映像との共通点を見いだし、所有者の男に犯行を認めさせた。

 捜査1課時代は、捜査本部が置かれた署で寝泊まりすることも少なくなく、妻に1週間分の下着を送ってもらうこともしばしばだった。署の道場で同僚と雑魚寝をしながら捜査に当たり、1カ月間、自宅に戻らなかったこともある。家族が待つ横須賀・久里浜のマイホームに着くと、ふだんは気付かない東京湾からの「潮の匂い」に敏感になる自分がいて、苦笑した。

 地道な捜査を経て、取調官として容疑者と向かい合う際は、いつも決まって「俺の田舎は秋田の大館でね」と、自身の生まれ育った環境について言い聞かせてきたという。

 横浜市内で女性が刃物で襲われて瀕死(ひんし)の重傷を負ったうえ、財布を奪われて現金が引き出される強盗殺人未遂事件が発生したときのことだ。捜査線上に浮上したのは不法滞在中の外国籍の男だった。

 行動確認の末に潜伏先を突き止め、身柄を確保したが、取り調べに対して1週間が経過しても何も話そうとしない。だが、そんな不遜な相手も、不意に取調官から自らの子供の頃の話を明かされると、態度を一変させて、せきを切ったように犯行を認め始めた。祖国に残した病弱の父親を思い出して、話す気になったのだという。

 自身が取り調べをし、殺人罪で無期懲役の判決を言い渡されて収監中の男からは、改悛(かいしゅん)の情がつづられた手紙が届いた。職務への思いに話が及ぶと、素朴な口調はやや熱を帯びる。

 「被害者は警察が容疑者を逮捕しても、彼らが自供し、謝罪しない限り、安心できないでしょう。情理を尽くして、そうさせるのが私たちの仕事なのです」

(宇都木渉)

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【用語解説】強行犯係

 県警刑事部捜査1課内で、または各署の刑事課内で、殺人、強盗、誘拐、放火、強制性交などの凶悪事件の捜査を担当する。現場検証や防犯カメラの映像などの各種資料をもとに、事件によっては膨大な対象者のなかから容疑者を割り出す。県内では署によって、強行犯係と窃盗事件の捜査を手がける「盗犯係」を統合した「強行盗犯係」が設置されている。

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【プロフィル】江●昭徳

 えばた・あきのり 昭和39年7月生まれ。秋田県出身。62年1月に巡査を拝命し、初任地は加賀町署外勤課(現・地域課)。平成4年3月からの同署刑事課強行犯係を皮切りに捜査1課強行5係、各署の強行犯係、強行盗犯係を歴任し、27年3月、警部補に昇任。29年9月より現係。趣味はウオーキングなど。家族は4人で、現在は妻の照子さん(54)と次女(26)の3人暮らし。

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