なぜ、PLAYERSは短期間で試作品を完成できたのか。
瀧澤さんは「プロボノだけでは事業化は難しい」と考えた。そこで、会員制交流サイト(SNS)を通じて協力を呼び掛けたところ、大企業の会社員らが個人の立場でワークショップに参加してくれた。集まった仲間は、自分の会社でアイデアを披露し、大企業をプロジェクトに巻き込むことに成功した。
一方で、事業の課題も浮き彫りになった。(1)妊婦、支援者がともに専用アプリをダウンロードする必要がある(2)東京圏の出生数は約29万人で、事業化しても黒字にできない-だ。
「LINE」を活用
そこで、既に社会インフラとなっている無料通信アプリ「LINE」を活用した&HANDの仕組みを考えた。29年12月、東京メトロ、DNP、LINEと共同で実施した地下鉄・銀座線での妊婦向けの実証実験では、LINEの友達登録者数が1万1415人に上り、実際に参加した支援者数は約270人。席を譲られた妊婦の割合は87%に達した。中には、デバイスを持っていない妊婦を探して席を譲った人もおり、「この仕掛けがなくても、自然と手助けができるんだと感動した」(瀧澤さん)。
最近、メディアに取り上げられるケースが増えたこともあり、視覚や聴覚などの障害のある人から「メンバーになりたい」という相談が増えている。「助ける側として協力したい」という彼らの思いに、瀧澤さんはこれまでの活動に自信を深めている。
米国発祥の考え方のプロボノをめぐっては、22年ごろから日本でも知られるようになった。「ビジネス以外の場で職能経験を積むことができる」(東京都内の人材サービス会社)ため、社員の人材育成として注目されたこともあった。
PLAYERSのケースは、「大企業と協業して社会的課題を解決する」というロールモデルとなったが、本業の忙しさを抱えた個人にとっては負担も大きかったようだ。瀧澤さんは「みんな忙しく、リソースも限られている。何を捨てて何に注力するかを常に考えた」と振り返る。
ビジョンとして社会的課題の解決を掲げる大企業は多いが、収益追求の建前もあって組織となると動きが鈍くなってしまう。プロボノの新しい役割が浸透すれば、日本社会に活気が出てくるはずだ。
(経済本部 鈴木正行)