主張

体罰禁止法案 「懲戒権」の廃止は慎重に

 親権者による体罰禁止を明記した児童虐待防止法と児童福祉法の改正案が衆院本会議で可決され参院に送付された。

 全会一致の可決であり参院審議を経て今国会で成立し、来年4月に施行される見通しだ。

 改正案は親権者が「しつけ」と称して体罰を行うことなどを禁じた。民法には親権者に必要な範囲で子供を戒めることを認めた「懲戒権」があることから、矛盾を解消するため、この廃止も含めて施行後2年をめどに検討する。

 千葉県野田市立小学校4年の女児が両親の虐待を受けて死亡した事件の反省から、国会が動いた改正案である。ただ、懲戒権の安易な削除には慎重であるべきだ。

 民法第822条は「親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる」と定めている。820条には「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」とある。

 留意すべきは、子の監護及び教育、つまり「しつけ」は、親権者の権利であるとともに義務でもあることだ。

 連動する懲戒権の廃止は、しつけの禁止と誤解されかねない。しつけを隠れみのとする虐待は許されない。当然である。一方で、しつけを放棄すれば、子供はまっとうな成長を望めない。

 例えば、わが子が理不尽ないじめに加担していたことが分かったとき、親は体を張ってでもこれを止めるべきである。懲戒権がないからと手をこまねく事態は最悪であろう。懲戒権については、廃止ありきの議論ではなく、その内容を精査、検討すべきである。

 改正案は、児童相談所の機能強化もうたっている。虐待児童の一時保護などにあたる「介入」の職員と保護者の相談などを担当する「支援」の職員を分けることが柱となる。だが全国の児相はただでさえ人手不足に苦しんでいる。

 安倍晋三首相は「躊躇(ちゅうちょ)なく一時保護に踏み切れるよう、大幅増員で必要な専門人材を配置する」と述べたが、大幅増員は多大な予算を伴い、簡単ではない。

 悲惨な事件を繰り返さないためにという方向性はいい。だが法改正だけで子供の命は救えない。学校や警察、広く社会の全てが本気にならなくては、救える命を見逃す不幸を繰り返す。

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