主張

がんゲノム検査 保険適用で薬剤開発急げ

 患者のがん細胞の遺伝子変異を調べて、最適な薬を選ぶ「がんゲノム医療」の遺伝子検査システムに公的医療保険が適用になった。

 がんゲノム医療時代の幕開けである。検査の可能性と限界を理解し、この医療技術を着実に発展させていきたい。

 検査機器は、国立がん研究センターなどが開発した「NCCオンコパネル」と、中外製薬が販売する「ファウンデーションワン」だ。いずれも、一度に100種類以上の遺伝子変異を調べられる。

 対象になるのは、標準治療のない固形がんや希少がんの患者で、約2万6千人と見込まれている。これまでは自費で数十万円の費用がかかった。「治療法がない」と言われた患者などが、わずかな可能性にかけて検査を受け、使える薬を探っていた。

 公的医療保険では、一連の検査に56万円の価格がついた。平均的な収入の70歳未満の人では、8万円程度の自己負担で済む。全国200弱の医療機関で広く検査を受けられるようになる。

 一筋の光明である。だが、過大な期待を抱くべきではない。治療に限界があることを踏まえておく必要がある。

 これまで、検査によってがんの遺伝子変異が特定され、治療薬が使えた人は1割程度だった。見つかった治療薬の使用に公的医療保険が使えないことも多い。治療を受けたくても費用を都合できないケースも出てきそうだ。こうした現状は事前に、患者にきちんと説明されなければならない。

 検査の結果、思いがけず遺伝性の疾患が見つかることもある。医療職は患者本人だけでなく家族にも寄り添い、どんな手立てがあるか、丁寧に情報提供をしてもらいたい。

 検査データは、患者の同意を得た上で、国立がん研究センター内の「がんゲノム情報管理センター」に蓄積される。治療情報とひも付けられ、新たな抗がん剤開発や、副作用のない薬剤選択などに役立てられる。

 今は、抗がん剤の選択は、胃や肝臓、大腸といった部位別に行われる。だが、どんな遺伝子変異があるかによって、部位を横断的に抗がん剤を選ぶ時代が、すぐそこまで来ている。データが蓄積されれば、薬剤の開発も加速する。その発展を期待したい。

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