〈自衛隊制服組のトップとして4年半。米朝の軍事衝突も予想された朝鮮半島危機に直面しながら、重責は異例の長期に及んだ。退官から2カ月が経過し、緊張の糸が切れたのではないかと話を聞き始めると、現職当時と変わらぬ落ち着いた口ぶりだった〉
公用の携帯電話を持たされなくなりましたから、生活のリズムは変わりました。それでも、北朝鮮やF35ステルス戦闘機のニュースなどを聞くと、まだ気になりますね。現役時代から「オンオフ」をきちんとするよう心がけていたので、疲れが出るということはないです。
自衛隊は何かあれば即応体制をとり、それをローテーションで回す。常に休む人間をつくっておかないとならないんです。私自身もオンオフを心掛けていました。だから、在職中も緊張でつぶれるようなことはなかったし、辞めて糸が切れることもありません。
〈オフを過ごすといっても遠出はできないが、河野氏の場合、身近なところにその方法があったという〉
在任中はずっと官舎生活でしたが、近くにゴルフの打ちっ放しがあるんです。クラブを数本担いで、歩いて30分くらいの距離にあります。30分くらい打って、また歩いて帰ってくる。休みの日は、この1時間半でずいぶんリラックスできましたね。あとは仲間と酒を飲む。家で横になって本を読むことも多かったですね。
〈かなりの読書家らしい。ジャンルは問わないが、明確な目的を持って読み、最初から最後まできちんと目を通すタイプ。人生の転換点にも書物があったという〉
どちらかというと歴史物が好きです。小説も好き。月刊誌も週刊誌も読みます。極力、幅広く読むようにしています。自衛隊の幹部学校の講演などでも言っていたのですが、高級幹部は常に決断を迫られる。上になればなるほど、総合的な判断が求められます。だから、読書を幅広く積み上げている人間の方が、より的確な判断ができるかもしれない。
いざというときに、読書量が力を発揮すると思っています。本を読まないという人は感心しません。いろんな人付き合いが人間形成になるように、読書は本との対話ですね。
それから、絶対に心がけたのは新聞を読むことです。仕事がら全紙が回ってきますが、極力目を通していました。新聞はいろんな見方、論評を知ることができる。記事の位置づけも分かる。切り抜きではそれは分からない。今はスマホで何でも読めますが、私は画面タッチより本物の新聞が感性に合いますね。(聞き手 石井聡)
河野克俊
かわの・かつとし 昭和29年、旧海軍出身で海上自衛隊に勤めていた父の赴任先、北海道で生まれる。52年に防衛大機械工学科を卒業、海上自衛隊に入隊。海上幕僚監部の防衛部長当時に、イージス艦衝突事故の責任を取る形で掃海隊群司令に異動するが、間もなく護衛艦隊司令官に復帰。自衛艦隊司令官、海幕長を経て平成26年10月に第5代統幕長に就任。安倍晋三首相の信頼は厚く3度の定年延長を重ね、在任は4年半にわたった。今年4月1日に退官し現在、防衛省顧問。愛称はドラえもん。