日米首脳会談でトランプ米大統領がイラン情勢をめぐり日本の仲介に期待を示し、安倍晋三首相が来月のイラン訪問に向け最終調整に入った。
戦争は望まないとするトランプ氏は「首相はイラン指導部と非常に密接な関係にある。今後どうなるか見ていきたい」と述べ、首相は「緊張を緩和していきたい」と応じた。
トランプ政権は昨年、イラン核合意から一方的に離脱し制裁を復活させ、イランは今月、合意の一部停止を表明した。米国は空母や戦略爆撃機を中東に展開させ、緊張が極度に高まっている。
この両国の仲介役の困難さは指摘するまでもない。だが、世界の平和のため欠かせない任務だ。首相のいう「積極的平和主義」を具現化する機会でもある。
同時に、イラン情勢の安定は日本の国益との認識も必要だ。日本は原油の多くを中東に依存し、大半はイランとアラビア半島を隔てるホルムズ海峡を通過する。イランが同海峡を封鎖すれば、重大な影響にさらされるからだ。
首相はまず、イラン側から「核合意の継続」を引き出してもらいたい。イランは、段階的な核開発の再開を警告しているが、挑発は事態を深刻化させるだけだ。
日米首脳会談で、首相はトランプ氏から仲介を託された形になっている。弾道ミサイルやテロ支援を含めた米国の疑念を伝え、イラン側の主張も聞き、両国の話し合いへのきっかけをつかみたい。
イランの核開発は北朝鮮とのつながりも強く疑われている。どのような仲介をするにせよ、肝心なのは核拡散を絶対に許さないという姿勢である。北朝鮮と向き合うときと共通するものだ。
核合意の残る5つの当事国は、一方的に離れた米国との仲介はしがたい。英国など欧州の当事国は、首脳の指導力を欠き、中露がイランに接近すれば危険だ。
日本はイランとは伝統的な友好関係にある。米国とイランを仲介し、中東の緊張を緩和できるのは日本しかないと自覚すべきだ。
首相のイラン訪問に先がけ、政府はイランと対立する中東のサウジアラビアとの調整など、準備に万全を期してもらいたい。
来月末には20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が大阪で開催され、有力首脳が集まる。そこまでにらんで、イラン情勢での仲介を果たすべきだろう。