一服どうぞ

日本人らしさに目覚めて 裏千家前家元・千玄室

元号が改められ、新しい御代(みよ)となりましたこと、誠におめでたいことであります。

新元号「令和」の由来については、万葉集巻五「梅花歌三十二首」の題詞「于時初春令月氣淑風和」をもとにしている。大伴旅人が大宰帥(だざいのそち)のとき、梅花の宴で著した歌の序文の一部でこれに依(よ)るとのこと。典拠が確認されている元号の中では、初めての国書からのものである。

これに対し、外務省が「ビューティフル ハーモニー」との訳を発表している。今までにはなかったことであろう。各国の報道で「令」を命令(オーダー)との認識が多くみられたためと聞く。ともあれ、初めて国書からとはうれしいことだ。

私は、源氏物語千年に当たる平成20年11月1日に「古典の日」を制定するため、瀬戸内寂聴さんや先に逝去なさったドナルド・キーン博士、梅原猛さんらと呼びかけ人の一人として古典を知ろうと呼びかけを行った。これを機会に万葉集を手にとった方も多かったと聞く。

万葉集の中には、白村江の戦いで大敗したため、急遽(きゅうきょ)東国より北九州の防衛として派遣された防人(さきもり)の歌も数多く収められている。当時は、ごく一般の人々まで漢字を使い、意味に関係なく表音すること(万葉仮名)により歌を作ることができた。これをみても古代から非常に高い民度だったことがわかる。

現代人があまり関心をもっていない古事記・日本書紀を読んでもらいたい。古事記を、おとぎ話のようにとらえる人もいるようだが、日本は古来、神をあがめることにより、自然との調和をうまく取りながら生活をしてきた民族なのだ。

サミュエル・P・ハンチントンの「文明の衝突」の中でも4番目に日本文明に言及し、中華文明が渡ってきたものではあるが、独自の進化をした孤立の文明であると述べている。

日本で創られた漢字に「躾(しつけ)」という字がある。身を美しくすると書き「しつけ」と読む。何もきれいに着飾ることを言っているのではない。所作、立ち居振る舞いを身につければおのずから美しくなることができる。茶道では点前(てまえ)も重要ではあるが、常に他の方を思いやる心持ちを学ぶことが躾を実現させる唯一の手立てだと考えている。

昔から日本には、独特の風流があった。戦後、アメリカの指導の下に教育が行われ、現在にいたっているが、風流が失われ、日本人が持っていた謙譲の美徳などということは何処(どこ)かに行ってしまったように感じる。

上皇陛下は、平成の御代は戦争がなかった時代とおっしゃられた。その通りであるが世界では思想や宗教の違いからの争いが絶えない今日である。

私は平和という言葉を使う世であってはいけないと思っている。大なり小なりいろいろな争いがあるがために平和という言葉が存在しているのである。争いが一切ない世になれば平和という概念も言葉も用いなくなるはずである。

国書から制定なされた元号のもと、今一度日本人らしさに目覚めてほしいと念じている。(せん げんしつ)

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