【ズーム東北】岩手発 馬耕復活に取り組む 県立大・渋谷晃太郎教授が実証実験 - 産経ニュース

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岩手発 馬耕復活に取り組む 県立大・渋谷晃太郎教授が実証実験

 農業機械の普及で廃れた農耕馬による「馬耕」を復活させようという実証実験が岩手県内で始まった。小規模経営が成り立つ農産物のブランド化が進むなかで、小回りがきいて環境に優しく、土作りにも優れている馬耕は見直されている。全国有数の馬産地で、かつて馬耕が盛んだった岩手県内でどんな復活を目指すのか実験結果が注目されている。(石田征広)

 実証実験は環境政策を専門とする岩手県立大総合政策学部の渋谷晃太郎教授が日本中央競馬会から800万円の助成金を受けて実施する。期間は2年で、馬耕に詳しい一般社団法人馬搬振興会の岩間敬代表理事が協力している。

 ◆安比高原の草原再生

 この実証実験は渋谷教授が携わる県北部の安比高原(八幡平市)に広がる半自然草原の再生事業が発端だった。放牧地として1千年以上も続く安比高原の半自然草原は昭和60年に放牧が停止され、急速な森林化で消滅しようとしていた。

 51年に80・61ヘクタールだった草原は21年後の平成9年には半分近くの44・23ヘクタールになっていた。渋谷教授は1千年以上続く草原の生物多様性を確保する立場から再生事業に携わり、最良の方法は農耕馬の放牧再開という結論にたどり着いた。

 ところが、馬耕が廃れ放牧する農耕馬が県内にもほとんどいなかった。そこで山から木材を運び出す馬搬の再興に取り組んでいる岩間代表理事に協力を仰ぐことになった。馬耕にも詳しく農耕馬のリースにも取り組んでいたからだ。

 馬耕が土作りに優れているのは、スキを入れる角度を調整することによって農業機械にはできない深さ15センチ以上の土起こしができるところ。これを3、4年に1度実施することで「地力」が回復したという研究データもあるという。

 岩間代表理事によると、欧州のワインの一等畑は馬耕だという。農業機械は便利な半面重く、土を固め根が伸びづらくなる。馬耕なら土を固めず、ブドウ畑なら2・5メートルのうね幅を1メートルにでき、良質なブドウを多く収穫できるという。

 化石燃料を使用しない馬耕は環境に優しく、農産物のブランドイメージのアップにもつながる。肥料としての馬糞(ばふん)は食感や味にも寄与するという。馬耕の指導にも当たっている岩間代表理事は「農耕馬は現在、3頭(長野、宮城、奈良の3県に各1頭)をリース中で、新たなオファー(依頼)も来ています」と手応えを口にする。

 ◆夏はトレッキング活用

 馬耕復活の実証実験は春秋の農作業に加え、夏の放牧期間中も引き馬トレッキングや馬車に活用するなどして、農耕馬を維持できる費用を自ら生み出す仕組みを構築するのが目的。環境問題に熱心に取り組む企業をオーナーに農耕馬を専門にリースする方式も検討されている。渋谷教授は「2年間の実証実験で農耕馬を安定して維持するサイクルを構築したい」と話す。

 実証実験の初日、岩間代表理事が馬耕を報道陣に公開した岩手県滝沢市は農耕馬に感謝して年に1度、きれいに着飾って練り歩く国の無形民俗文化財「チャグチャグ馬コ」ゆかりの地。参加する馬は現在、このイベントのためだけに飼育されているのがほとんど。

 実証実験が成功すれば、本来の農耕馬の参加も可能となり、200年以上続く伝統的な馬事文化の継承にも寄与すると期待されている。