朝晴れエッセー

まあ、いっか!・5月25日

カレンダーが最後のページになった小春日和の日曜日。ハンドルを妻に任せ、私は悦に入っていた。久々にゴルフで妻に勝った。締りのない口元に妻はあきれ顔だ。

携帯が鳴った。義父の携帯からだった。今日の凱歌(がいか)を一講釈してやろうと、通話ボタンに手を伸ばす。

「もしもし、私、隣のSですが、お父さんが大変です!」初めて聞く女性の声だ。早口で甲高い声が尋常でない事態を窺(うかが)わせる。浮かれ気分は吹っ飛び、猛スピードで妻の実家に向かった。

裏口で転げ落ち、身動き取れないところをSさんに救われたという。全身を強く打ったようだ。救急車を拒む義父を抱きかかえ、車で病院へと向かう。応急処置を施され、長期通院と安静が必要と診断された。しかし妻は会社勤めの身、私一人では満足に看病することはできない。強引に説得して養護施設に入所させることにした。

閑静で快適なたたずまいは、当初渋っていた義父も気に入ったようで、数日後、楽譜の要請が来た。リハビリを兼ね談話室でピアノを弾いていると、リクエストを受けたという。他にも尺八、詩吟など多趣味な彼は話題に事欠かない。譜面を届けると、さっそく囲碁セットの注文である。

社交の場を持てるのは良いことだ。しかし、この様子では毎日のように愛用品を運ぶことになりそうだ。私とて、傍で見るほど暇ではないのだが…。

また電話が鳴っている。「まあ、いっか!」。いずれは自分も行く道だ。できることは何でもやろう。遠慮はいらないと約束したのだから。

根岸 幸晏 72 埼玉県熊谷市