カイコのタンパク質で医薬品 家畜昆虫から新産業創出 九大が研究施設公開

公開された九州大のカイコ研究拠点。多くの種類のカイコが飼育されている=福岡市西区
公開された九州大のカイコ研究拠点。多くの種類のカイコが飼育されている=福岡市西区

 九州大は、医薬品の原料を製造する福岡市のベンチャー企業と協力して、カイコが生成するタンパク質をワクチンなど医薬品開発に生かす研究に取り組んでいる。23日には、約450種類のカイコを飼育する大学内の研究拠点を報道陣に公開した。人類が数千年前から飼育する家畜昆虫から、糸だけでなく、生物に有益な物質を得ようという試みで、研究を新産業創出につなげたい考えだ。

 この日、公開したのは「カイコバイオリソース研究施設」で、施設内にはいくつもの大きなザルがあり、その中で大量のカイコが飼育されている。その数は合計22万頭に上る。

 九大は明治44年以来、遺伝子研究などのためにカイコの飼育を続け、交配の記録を保存している。「カイコの研究で世界をリードする存在といっても過言ではない」(同大)という。

 研究を主導してきた農学研究院の日下部宜宏教授らは、長年にわたる交配の結果、ワクチン製造などの原料となるタンパク質を体内で多く生成するカイコが存在することを突き止めた。

 インフルエンザなどの感染症では、毒性を弱めたウイルスをワクチンとして使う。日下部教授らの研究によると、カイコにウイルスの遺伝子を組み込んだ物質を注入すると、体内でそのウイルスに似たVLP(ウイルス様粒子)と呼ばれるタンパク質を生成する。

 VLPを使ったワクチンは、人体で免疫反応を起こさせ病気を予防する。従来のワクチンに比べ、体内でウイルス増殖のリスクがなく、より安全なワクチンの製造につながるという。

 九大は昨年4月、「昆虫科学・新産業創生研究センター」を設立し、大学発の研究を、産業化に生かす基盤を整えた。

 同時期に、九州大のビジネススクールで学んだ大和建太氏(51)が、研究を実用化につなげようと、ベンチャー企業「KAICO」を設立した。ふくおかフィナンシャルグループ傘下「FFGベンチャービジネスパートナーズ」の運営するファンドが4千万円を出資している。

 KAICOは、日下部氏らと連携し、昨年12月から、カイコから取り出したタンパク質を研究用試薬として販売している。5年後に動物、8~10年後に人に対する医薬品の開発に結びつけたい考え。

 大和氏は「自然の力を借りて薬をつくることができる技術であり、ビジネスとして大きな価値がある」と語った。

 日下部氏は「感染症防御の面で貢献したい。パンデミック(爆発的な流行)など、非常時に多くのワクチンが作れるシステムを確立したい」と述べた。

 九大は生物資源を収集、保存し活用する国の「ナショナルバイオリソースプロジェクト」の拠点にもなっている。昆虫のコレクション数は日本でトップ、世界でも12位と、昆虫関係の研究では屈指の拠点でもある。100年以上のカイコ研究を生かし、新産業の創生で世界をリードする。(高瀬真由子)

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