メイ英首相、無念の退場 交渉・対話力に乏しく

 【ロンドン=板東和正】辞任を表明したメイ英首相は、英国の欧州連合(EU)離脱に道筋をつけられないまま退陣に追い込まれた。円満な離脱に必要な離脱協定案の下院可決には3度も失敗。打開策はいずれも猛烈な批判を浴び、辞任表明の演説では涙ぐみながら無念さをにじませた。メイ氏が失態を繰り返した原因は何だったのか。

 「メイ氏は、悲惨なほど交渉力がなかった」。23日、英国で始まった欧州議会選で、ロンドンの投票所を訪れた男性(38)はそう批判した。与党・保守党を長年支持していた男性は党首のメイ氏に落胆し、欧州議会選で別の党に投票したという。男性は「メイ氏の政策はどれも独りよがりで、強硬離脱派との対話が不足していた」と指摘する。

 メイ氏は昨年11月、アイルランドの国境問題が解決するまで英国全体をEU関税同盟に残す-とした協定案でEUと合意。完全な離脱を求める保守党の強硬離脱派は強く反発した。

 メイ氏は下院で協定案を可決させるため、強硬離脱派との協議でなく「脅迫」を選んだ。協定案が可決されなければ、経済混乱を伴う「合意なき離脱」に陥ると一方的に迫った。メイ氏は、「最悪のカード」をちらつかせれば強硬派が寝返ると踏んでいたようだ。

 メイ氏の思惑に反し、強硬離脱派は態度を硬化させた。焦ったメイ氏は3月、協定案が可決すれば辞任すると表明し、ようやく同派の多くが賛成にまわった。

 その一方でメイ氏は4月、保守党内の同意を得ないまま、最大野党・労働党の支持を得るためにコービン党首との協議を開始。再び、保守党内の支持を失った。同党議員は「(メイ氏は)芸術の域に達したといえるほどの判断ミスをした」とあきれる。メイ氏は今月21日、国民投票の再実施について議会に諮る方針を発表。労働党にさらに歩み寄ろうとしたことで、保守党内の大半の議員が辞任を求める事態に発展した。

 一方、メイ氏に同情的な意見もある。ある有権者は「離脱、残留派が分かれる英国で誰もが納得する離脱を実現するのは不可能だ」と話した。

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