新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などは21日、北九州市沖の響灘に設置した洋上風力発電設備の実証運転を始め、報道関係者らに公開した。令和3(2021)年度までに、実用化への課題を洗い出す。海域の長期利用を可能にする法整備も進み、洋上風力には追い風が吹く。半面、規模の小ささなど、主力電源化には高い壁が残る。(九州総局 中村雅和)
実証運転は、NEDOのほか、丸紅や日立造船、九州電力グループの九電みらいエナジーなどが参加した。
風車は1基で高さ約70メートル、直径100メートル、出力は3千キロワット。風車の基礎部分が海に浮かぶ「浮体式」を採用した。
水面から基礎最下部までの喫水は7・5メートルで、大型客船と同程度という。他の浮体式と比べて喫水は浅い。港湾内で組み立てが可能になり、建設コストが抑えられる。
実証運転で耐久性や遠隔操作による管理方法などを検証する。一連の事業費用は約150億円を見込む。
■有望な選択肢
陸上の風力発電では、山や谷など地形による気流の乱れが原因で、計画通りの発電ができないケースが目立つ。九州では、熊本県が阿蘇市で平成17年に運転を始めた「阿蘇車帰(くるまがえり)風力発電所」が、2億円超の累積赤字を抱え、平成30年11月に民間企業に譲渡された。近隣住民が、低周波や騒音被害を訴えることもある。
洋上では、これらのデメリットを小さくできる。
北九州沖の風車付近では、平均風速が毎秒7メートルを超える。設備利用率は約40%を想定する。風力発電の採算ラインは20%なので、かなり高い。また、港からの距離が約15キロと遠い。海上保安庁は、航行の安全性にも支障がないと認めた。
NEDOの及川洋副理事長は「陸上の適地が減少する中、海上風力は有望な選択肢だ」と述べた。
電力事業者も期待を寄せる。
九電は電源開発や西部ガスなどと、同じ響灘でもより陸に近い海域で、洋上風力の事業化を検討する。4月にはドイツのエネルギー最大手で、洋上風力のノウハウを持つエーオンと協定を結んだ。九電の池辺和弘社長は「解決すべき課題はいくつかあり、一足飛びには実現しない。それでも魅力はある」と語った。
日本風力発電協会の上田悦紀国際・広報部長は「二酸化炭素排出量の抑制に、風力の導入加速は欠かせない。大手電力会社が本格参入を始めるなど、潮目は変わりつつある」と述べた。
■既存の3倍高
ただ風力発電が、火力発電所や原発に取って代わるには、課題が多い。
第一はコストだ。経済産業省資源エネルギー庁によると、洋上風力の1キロワット時当たりの発電単価は30・3~34・7円となっている。原発の10・3円以上はもちろん、天然ガス火力の13・4円、水力11円と比べて3倍にもなる。
また、今回の風車1基の年間発電量は、1千万キロワット時と想定する。九電の年間販売電力量722億キロワット時(平成30年度)の、わずか0・01%に過ぎない。
販売電力量の1割をまかなうには、単純計算で巨大な風車1千基が必要となる。適地確保や漁業関係者との補償交渉も、大きな壁となる。コストが下げられないまま発電量が膨らめば、電気代は高騰する。また、太陽光と比べれば安定しているとはいえ、発電量は天候に左右される。アイルランドのように蓄電池との併用が欠かせない。