「遺骨鑑定人」として先の大戦の戦没者の遺骨収集に携わってきた人類学者の楢崎修一郎さん(60)が3月、北マリアナ諸島・テニアン島で亡くなった。国の戦没者遺骨収集団の一員として、同島での活動中のことだった。「戦争の犠牲者に対して人道を尽くすことは、平和を願う者に課せられた義務」。こう誓いながら活動を続けてきた遺骨鑑定の第一人者の突然の悲報に、関係者は「遺骨収集事業にとって大損失」と話している。
楢崎さんは遺骨収集事業で1月にミャンマーを訪問。2月に急遽(きゅうきょ)マーシャル諸島を訪れることになったが、3月下旬には当初の予定通りテニアン島での遺骨収集に参加していた。しかし同21日の活動中、体調不良を訴えて急逝した。
戦没者の遺骨は、現地で発見された際に日本人か否かを鑑定する必要がある。遺骨からは年齢や性別だけでなく、生活スタイルなども見分けられ、楢崎さんら遺骨鑑定人がその役割を担う。
各国で出土した古人骨(こじんこつ)の発掘調査・研究に携わってきた楢崎さん。人類学者として遺骨鑑定の第一人者といわれるようになり、平成4年に日本人兵士の遺骨収集活動への同行を依頼されたことから、戦没者の遺骨鑑定に携わるようになった。22年に、遺骨鑑定を行う厚生労働省人類学専門員に就任。今年からは、国が遺骨収集を法的に「国の責務」と位置づけた「戦没者遺骨収集推進法」に伴い設立された、日本戦没者遺骨収集推進協会の専従として活動に従事し、22年以降700人分以上の遺骨を鑑定してきた。
その鑑定能力は、日本国内だけでなく現地の国から名指しで要請が来るなど、世界からも信頼が厚かった。「戦没者が顧みられなくなることで二度死なせてはならない」と活動に取り組み、収集団メンバーや現地住民と一緒になって穴に潜り泥だらけになって考察を進める姿は、周囲からの人望を集めた。