佐藤優の世界裏舞台

研究不正と良心

深井氏とは、平成29年4月から昨年夏まで毎月、2人でシュライアマハー(1768~1834年)というドイツの神学者の『宗教について』『神学通論』という神学書を精読した。この読書会には、深井氏についてキリスト教を勉強している国際基督教大学の学生数人が参加していた。深井氏は学識が豊かで、尊大なところがない。指導も丁寧で、学生の個人的な悩みの相談にも真摯に応じていた。その姿を見て筆者は「この人は、本質において牧師なのだ」と思った。

昨年10月に深井氏の研究不正疑惑が浮上したとき、筆者は電話で真相を尋ねた。その際に、「言えないことがあるなら黙っていても構わない。どんなことがあっても深井さんへの友情は変わらない」と伝えた。深井氏は淡々とこう述べた。

「あの本を書いてから、大学を2度変わった。引っ越しの際に開封していない段ボール箱がいくつもあって、資料がどこに入っているかわからなくなっていた。探すので待ってほしいと言っていたのに、捏造じゃないかという話になってしまった。今回の騒動が起きてから本格的に捜索して、資料は既に見つかったのだけれども、大学から調査委員会の見解が出るまで、外部に見せてはいけないと言われている。佐藤さんには内々にコピーを渡してもいい」

筆者は「それを聞いて安心した。大学の指示は守った方がいい。コピーはいらない」と言って電話を切った。何らかの行き違いがあっただけで、深井氏が研究不正に関与しているとは思わなかった。

11日に同志社大学神学部での講義があるので、前日に京都入りした。深夜、ホテルの部屋で東洋英和女学院がHPに発表した詳細な報告書を精読し、筆者は自分の認識が間違っていたと反省した。深井氏は現時点でも不正を認めていない。記憶が変容しているのかもしれない。深井氏と閉ざされた扉の中で、同じ神を信じる友人として腹を割って良心について話し合いたい。

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