【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権打倒を掲げ、3月に発足した脱北者らの組織「自由朝鮮」は「北朝鮮人民を代表する正当な臨時政府」だと宣言し、国内の同志とともに金政権を「根元から揺さぶる」と主張する。在スペイン北朝鮮大使館襲撃という非合法事件に手を染めながら何を目指そうとしているのか。組織の中心人物の言動を基に光と影を探った。
「21世紀にこんな悪魔のような体制があるのか!」
韓国の脱北者団体代表の朴相学(パク・サンハク)氏ら親交のあった関係者によると、「自由朝鮮」の中心人物で、大使館襲撃で手配中のアドリアン・ホン・チャン容疑者は米名門のエール大在学中の2004年ごろ、北朝鮮で「コッチェビ」と呼ばれる路上生活の子供だった脱北者の講演を聞いて衝撃を受けたのが北朝鮮の反体制活動にのめり込むきっかけだった。
北朝鮮の人権問題に取り組む市民団体「LiNK(リンク)」を立ち上げ、「カリスマ性と強い意志」(朴氏)で瞬く間に米全土の大学や海外に支部を持つ組織に成長させた。06年には中朝国境で脱北支援に当たっている際に中国当局に拘束された。
北朝鮮から韓国に亡命した黄長●(=火へんに華)(ファン・ジャンヨプ)元朝鮮労働党書記との08年ごろの面会が大きな転機になったとも考えられる。ホン・チャン容疑者が「ここ(韓国)にいても何もできない。いっそ臨時政府をつくって主席をなさるよう」要請したのに対し、黄氏は激怒した。「韓国を祖国と仰ぎ来たのにまた亡命しろというのか!」
ホン・チャン容疑者は、黄氏も「しょせん学者だ。われわれ闘士とは違う」と強い失望感を漏らしたという。10年前後からはLiNKの運営を後進に任せて民主化運動「アラブの春」が起きていたチュニジアやリビア、シリアを訪れる。北朝鮮の独裁体制打倒に役立てるのが目的だったという。