安倍晋三首相が夏の参院選前に衆院を解散し、衆参同日選を断行するとの臆測が自民党内で広がっている。16日には、各派閥や党の幹部から同日選をめぐる発言が相次いだ。米中貿易摩擦などを背景とする日本経済の悪化を防ぐために消費税率10%への引き上げ延期を決断する場合に加え、憲法改正も衆院選の争点になるとの見方も出始めた。
首相の出身派閥で党内最大勢力の細田派(清和政策研究会・97人)事務総長を務める下村博文憲法改正推進本部長は16日、改憲論議が停滞している状況を打破する目的での同日選の可能性を記者団に問われ、「『(野党から)内閣不信任案が出るなら受けて立つべきだ』という人がちらほら出てきている」と述べた。
党の選挙の司令塔である二階俊博幹事長率いる二階派(志帥会・43人)の例会では、河村建夫会長代行が選挙に言及した際に「参院選のことを言っている」とあえて強調し、伊吹文明最高顧問が「(衆院選ではないと)断らなければいけないような雰囲気になってきている」と解説した。
国会での解散風は、首相の側近である自民党の萩生田光一幹事長代行が、消費税増税を延期する場合には「国民に信を問うことになる」と述べたことから一気に強まった。政府は3月の景気動向指数での基調判断を「悪化」に下方修正し、解散風は勢いを増した。そこへきて、首相が13日の党役員会で所属議員に積極的に改憲の議論をするよう指示し、改憲が衆院選の「大義」として浮上してきた。
改憲は国民の間で賛否が拮(きっ)抗(こう)している課題で、争点とするにはリスクが高いのも事実だ。自民党の甘利明選対委員長は16日、改憲を争点とした衆院選について都内で記者団に「首相がその考えに現時点で同調しているとは、まだ私には思えない」と述べた。これに先立ち出演したBSテレビ東京の番組では「衆院議員に『(参院選を)自分の選挙だと思ってやってくれ』と火をつけるために、臆測でダブル(同日)選論が出るのだと思う」と語った。
自民党のベテラン議員は「いまは内閣支持率が堅調で野党が弱いので、官邸が衆院選を打ちたくなる気持ちは分かる。大義を探しているのだろう」と述べた。
ただ、同日選に否定的な公明党の北側一雄副代表は16日の記者会見で、「極めて一部の話ではないか。国民にとって改憲の機運は盛り上がっていない」とクギを刺した。(沢田大典)