外交安保取材

外交青書から消えた日韓の「未来志向」

安倍晋三首相=5月10日、首相官邸(春名中撮影)
安倍晋三首相=5月10日、首相官邸(春名中撮影)

令和元(2019)年版の『外交青書』は、日韓関係をめぐり、これまで記載していた「未来志向」の文言を含む表現を削除した。いわゆる徴用工判決をはじめ、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が両国間の問題を一方的につくり出してきた昨秋以降の現状を反映した形で、政府は、このままでは韓国と未来は描けないと認識しているとようだ。10日で発足から2年を迎えた文政権が日本に対する言動を改めない限り、外交青書の記述も改善されることはなさそうだ。

かつては「基本的価値を共有」

外交青書は、そのときどきの日本の外交方針・活動をまとめた政府刊行物で、毎年4月に外相が閣議に報告し、6月に市販するのが通例だ。外務省のホームページでも公開されている。

二国間関係や地域情勢をめぐる記述は、政府の公式見解を示すため、外交青書は各国の政府も注目し、政治・外交の研究資料としても利用されている。

河野太郎外相が今年の外交青書を閣議に報告したのは4月23日。記者は、北朝鮮情勢や北方領土交渉といったテーマとともに、日韓関係に関する記述の変化に注目した。

というのは、近年、外交青書の日韓関係をめぐる表現の変更がニュースとなってきためだ。

「未来志向」の4文字は平成10(1998)年10月、当時の小渕恵三首相と金大中(キム・デジュン)大統領が東京で署名した日韓共同宣言(日韓パートナーシップ宣言)で、金氏の発言として記されている。

「両国が過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させるためにお互いに努力することが時代の要請である」

この宣言の後、両国の歴代首脳は「未来志向」の日韓関係に言及し、外交青書も発言に触れたり、「未来志向の友好・協力関係を更に発展させていくことが重要」(15年版)などと記したりしてきた。

16年に第一次政権を発足させた安倍晋三首相は「未来志向」に加え、日韓は「自由と民主主義、基本的人権等の基本的価値」を共有するパートナーであると新たに定義した(19年版外交青書)。

この定義は福田康夫、麻生太郎両政権と旧民主党政権にも引き継がれた。20年版からは「重要な隣国同士」との表現も加わり、「日韓両国は、自由と民主主義、基本的人権などの基本的価値を共有する重要な隣国同士」(23年版)などと記載されてきた。

ところが、27年版は「自由、民主主義、基本的人権などの基本的価値を共有する」との表現を削除し、単に「日本にとって最も重要な隣国」とした。

背景には、朴槿恵(パク・クネ)前大統領に関する署名コラムを書いた産経新聞の元ソウル支局長が在宅起訴され(その後無罪判決)、長期にわたり出国禁止となったことなどがあった。