日本語メモ

「時代は変わる 時代が替わる」

 「令和」という新しい時代になりました。巷ではこの1カ月ほど、改元にあやかったセールやイベントなどが目白押しでした。服喪を伴わない約200年ぶりの譲位。人々も天皇陛下のご即位を喜び、ビジネス的にも便乗できたのはないでしょうか。とはいえ、ハロウィーンのようなやりすぎの騒ぎもあまり起こらず、全般的に静かにお祝いしている印象を受けました。

 この「やりすぎない程度に騒ぐ」というところになんとも「日本人だなあ」という部分が見え、またあらためて天皇陛下を日本国民統合の象徴として受け入れているからこその振る舞いなのかなと思いました。

 先週、出勤途中の駅構内で家電量販店によるエアコンの広告が目に入りました。キャッチコピーは「時代は変わる 空気も替えよう」。この「変わる」「替えよう」という表現に目が釘付けになりました。実は校閲をする上でこの「かえる・かわる」はなかなかの強敵でいつも悩まされるのです。「変」「替」「換」「代」とこれらの字を使い分けて「かえる・かわる」を表記しなければなりません。

 まず「時代は変わる」ですが、これだと時代は平成から令和へ、というよりは扇風機からエアコンへ、みたいな意味に受け取れます。「昭和のころの夏と言ったら扇風機で暑さをしのいでいたのにねえ。今はエアコンがないと生きていけない…。もうそういう時代じゃないんだよ」という感じでしょうか。「変化」「変遷」などというとわかりやすいでしょうか。では「時代は替わる」としたらどうでしょう?

 改元で「御代替わり」という言葉が弊紙でもよく見られました。明鏡国語辞典によれば御代(みよ)とは「代」の尊敬語。ある為政者が統治している世。特に天皇が治めている世。またその在位期間とあります。「代替わり〈経営者、年代など〉」はハンドブックに載っており、それを明鏡では「君主、戸主、経営主などが次の代に替わること」と説明しています。

 今回はまさに平成から令和へと御代がかわるのですから、本来それを言いたいのなら「時代は替わる」とするのが自然な考えで、実際それでいいような気がします。ところが字面を見慣れていないためか違和感があったようで、実際の紙面では「変わる」が大勢を占めていました。ネットでも大多数がこの「変わる」でした。

 正直に言えば大きく間違っているわけではありませんので、直しづらい面もありました。ただ「時代は変わる」と「御代替わり」が同じ紙面で混在すると、読者の方は「御代替わり」って使い方はホントに正しいの?…となりますよね。

 紙面では、一つ一つ説明するわけにもいかないので、難しいところです。

 ちなみに「空気を替えよう」ですが、空気=エアコンと考えれば「買い替える」という意味に取れるので違和感なく伝わると思います。換気という意味でなら「空気を換える」に、「空気を変える」ならその場の雰囲気を良くする意味になります。(ひ)

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