朝晴れエッセー

料理当番・5月10日

「料理を始めた」と言えば少し大仰であるが、定年を機に少しずつ台所に立つようになった。

妻が忙しそうにしているので、テレビの料理番組を見て簡単なメニューを作ってみた。それが妻には好評であった。特に初めて作ったカレーライスには絶賛した。実はこれも妻の陰謀だった。私はすっかり図に乗ってメニューの拡大に努めた。不器用な手つきで食卓に出した。すると妻はどんな料理でも「おいしい」と食べた。当然である。自分の負担がどんどん軽くなるのを拒むはずがない。そうとも知らない私は、料理本まで買って妻を喜ばせようと慣れないことに挑戦した。

しばらくすると妻から夕食作りを当番制にしないかとの提案があった。ほぼ強制的に火曜日と金曜日が私の夕食当番となった。当番となると気が向いたときだけ作るというわけにはいかない。そしてもれなく食器洗いもついてくる。

当番制が定着すると妻の立場が強くなり、作れるメニューが少ないので同じ料理が続くと「またカレー」と不満がでる。また、「今日は何にしようか」と言うと「それを考えることから食事作りが始まっているのよ」と情け容赦ない。それでも火曜日と金曜日はすぐにやってくる。

妻はきっと「うまくしてやった」と内心ほくそ笑んでいることだろう。しかし台所に立つたびに、40数年間、働きながら台所を守り続けてきた妻への感謝と敬愛の気持ちがわいてくる。

谷口 朗 72 神奈川県綾瀬市