酒呑み鉄子の世界鉄道旅

番外編 チョコレートかマンゴーか、それとも真珠か。フィリピンの島々をめぐってみた

【酒呑み鉄子の世界鉄道旅】番外編 チョコレートかマンゴーか、それとも真珠か。フィリピンの島々をめぐってみた
【酒呑み鉄子の世界鉄道旅】番外編 チョコレートかマンゴーか、それとも真珠か。フィリピンの島々をめぐってみた
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 こちらでもご紹介したように、7107もの島を持つフィリピン。その島のひとつが、実は世界的なチョコレート(カカオ)の産地だなんてご存じだろうか。チョコレートの産地といえば、アフリカや南米を思い浮かべるのではないだろうか。

 「そもそもフィリピンのチョコレートっておいしいの」。そんな疑問を抱きつつ首都マニラから国内線で飛び、ミンダナオ島南部にあるフィリピン第三の都市ダバオに降り立った。

 いきなり余談だが「フィリピンの人ってどんな国民性?」と問われるたび、私はこのときの光景を思い出す。到着ロビーで、警察官たちがギターをかき鳴らし、歌い踊っていたのだ。実はこれは驚くことでもなんでもなく、フィリピンでは、警察はもちろん役人も、大統領や政治家だって歌い踊る。この日は「警察官はフレンドリーで怖くないですよ。だから旅行者のみなさんは、困ったことがあれば警察にご相談ください」というプロモーションだったとか。こんなに警官が大挙して踊っている間、街の治安はどうなるんだーい!

(写真・文/トラベルジャーナリスト 江藤詩文)(取材協力=フィリピン政府観光省 https://www.premium-philippines.com)

 最近、チョコレートを語るときに必ず出てくる「ビーン・トゥ・バー」という言葉をご存じだろうか。これは10年くらい前にアメリカのクラフトチョコレート(クラフトビールと同じく、小さなメーカーがつくる少数生産の手づくりチョコレートのこと)のムーブメントから生まれた言葉で、カカオ豆(ビーン)から板チョコバー(バー)ができるまで、自社工房で一貫して製造するスタイルを意味する。現在ではさらに意味が深まり、カカオ豆の調達も自社で行い、社会問題にもなったカカオ農家を搾取することなく、生産者から直接適正な価格でカカオ豆を買い取り、持続可能(サステナブル)なチョコレートづくりに取り組んでいるメーカーの姿勢を指すこともある。

 しかしながら、一般的にカカオの木は「カカオベルト」と呼ばれる赤道の南北緯度20度以内でしか生育しないため、「カカオベルト」圏外の場所では、カカオ豆を輸入するしかない。フィリピンのカカオ豆農家も、かつてはカカオ豆を収穫し、安い値段で売っていた。

 そんな発想を転換したのが、ダバオを中心とするチョコレートの作り手たち。せっかくカカオの木が育つ恵まれた土地なのだから、カカオ豆からではなく、カカオの木の栽培から一貫してチョコレートづくりを管理するという意味の「ツリー・トゥ・バー」をコンセプトに、オーガニックなカカオの畑をつくっている。

 2018年に開催された世界最高峰といわれるチョコレートの品評会「インターナショナルチョコレートアワード2018」では、「ツリー・トゥ・バー」部門などダバオ産のチョコレートが多くの賞を受賞した。ハラルチョコレートを製造するメーカーもあり、こちらも賞を受けている。

 チョコレートは板チョコとしてシンプルに食べるほか、甘いスイーツやデザート、アイスクリームに使われる。チョコレートドリンクとして、温めたり冷やしたりして飲むこともある。ここまでは世界共通だろう。しかしダバオでは、甘さを控えたチョコレートを入れて煮たお粥に、しょっぱい干物の焼き魚や揚げ魚を合わせたり(ダバオの朝食の定番メニュー)、フィリピンのおふくろの味であるフィリピン版肉じゃが「アドボ」にチョコレートを入れたりする。

 さらに、カカオに含まれるポリフェノールなど健康効果に期待して、チョコレートをふんだんに使ったスパも登場した。フィリピンに伝わる民間療法「ヒロット」と組み合わせたマッサージは、甘い香りに包まれた極上の体験となった。

 ダバオはまた、フィリピン人が「美食の街」と認めるほど、食べるべきものがたくさんある。アメリカのスターシェフで、作家としても活躍し、テレビ番組ではホストを努めていた飲食業界のカリスマで、2018年に自殺したアンソニー・ボーデインも、自身の冠番組でダバオを訪れ、郷土料理を絶賛した。それが「マグロのカマのスパイシーな炭火焼き」だ。

 もともとは、ダバオで水揚げされたマグロを冷凍して日本に輸出するのに頭部が不要とされ、地元の人たちはカマしか食べられなかったことから生まれた料理だそうで、なんだか申し訳ない気にもなった。それなのに「名物料理をつくるきっかけは日本だよ!」とニコニコしてくれる親日なフィリピンの人々。優しい。

 ダバオの山岳部には少数民族が多く住み、それぞれの料理を食べられるテーマパークのような施設もある。

 さて、フィリピンを何度か訪れたリピーターならダバオをおすすめするが、初めてのフィリピンでマニラと組み合わせるなら、やはり海のきれいなビーチリゾートを訪れたい。貨幣価値の差もあり、フィリピンのリゾートは、高級ホテルであっても割安な価格で泊まれるのが魅力だ。

 フィリピン南西部・パラワン諸島の北東部に位置し、パラワン本島の村と、沖合に浮かぶ大小数十の小島からなる「エルニド」は、神様がつくったフィリピン最後の秘境とも言われるリゾート。「海洋自然保護区」に指定されていて、1島1リゾートでプライベートな空間を確保しているホテルも多く、静かな時間と透明度抜群の海を楽しめる。

 私が訪れたのも、「タイタイ湾」に浮かぶ1島1リゾートのひとつで、「エコ・アイランド」を提唱する「アプリット島」。50室のゲストルームは1棟ずつ独立した水上コテージで、どこまでも続く透明な海の眺めをひとり占めできる。

 島には、コンビニなどショップや外部のレストランは一切ないため、滞在は「オールインクルーシブ」と言われる、食事やアクティビティがパッケージになったスタイルが主流となる。

 スペイン統治下時代にも、景観のあまりの美しさにスペイン人たちが開拓をためらったおかげで、澄んだ水色の海は、現在も海底まで美しい。スキューバダイビングのライセンスを持っていなくても、ガイドの案内で行くシュノーケルツアーで、じゅうぶんにみごとなサンゴ礁を見ることができるので、リゾート主催のアイランドホッピングなど、アクティビティには積極的に参加するのが正解だ。

 フィリピンで昔から漁に使われてきたという伝統的な「バンカーボート」に乗り、まだ明けきらない海に漕ぎ出すサンライズクルーズや、遮るものが何もなく、海一面がオレンジに染まるサンセットクルーズでは、日ごろの都市型の生活で狂ってしまった体内時計がリセットされるよう。地図には載っていない秘密の島で、真珠を生産する日本人に出合ったりも。

 マニラから国内線ワンフライトで来られる秘境リゾート。ショートトリップでも組み込みやすいのは、日本から近いフィリピンならではの利点だ。

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