日本卓球界を支えてきた男の挑戦が幕を閉じた。4月28日に閉幕した世界選手権個人戦(ブダペスト)を最後に、世界選手権個人戦からの引退を公言していた29歳の水谷隼(じゅん)(木下グループ)は3回戦で韓国の鄭栄植に3-4で敗戦。ここ数年、ショーアップ化が進む会場の影響で「球が見えない」という難題を抱えながらの戦いだった。「これが自分の実力」。潔い言葉には無念さがにじんでいた。
最初に目の異常を認識したのは、LED広告が導入されはじめた2013年ごろだったと、水谷は振り返る。コートサイドに設置されるLED広告の白っぽい文字に球が重なると、球自体が一瞬消える感覚があった。
それが明確になったのが昨年の全日本選手権。「車のライトの中から急にボールが出てくるみたいな。近くまで来ないと球が見えない」状態だった。
さらに、最近のワールドツアーで主流となっている、客席を暗転して競技エリアだけを照らす演出も拍車をかけた。周囲が暗い分、「光がバッと卓球台に集まって反射する。すごく見づらくなっている」。日常生活に影響はないが、「ライトアップされる試合環境が多いことはあまり選手にとって良くない。僕が特別というより、みんなボールが見づらいという話はする」と水谷。
実際、女子の伊藤美誠(みま)(スターツ)も「真上にライトがあると、ボールとかぶってみえない。最近は投げ上げサーブの選手が多いので、すごい感じる」と指摘する。だが、水谷ほどの深刻さを訴える選手はいないようだ。