歌姫キム・ヨンジャの「超浮き沈み人生」(下) 再ブレーク呼び込んだ名曲「アモール・ファティ」 

歌姫キム・ヨンジャの「超浮き沈み人生」(下) 再ブレーク呼び込んだ名曲「アモール・ファティ」 
歌姫キム・ヨンジャの「超浮き沈み人生」(下) 再ブレーク呼び込んだ名曲「アモール・ファティ」 
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 NHK紅白歌合戦に3度出場し、日本で成功を収めた韓国人歌手、キム・ヨンジャ(60)。ところが、トラブルが襲う。公私とものパートナーだった夫と離婚。今から10年前の2009年、身一つで母国・韓国へ「傷心帰国」せざるを獲なかった。韓国メディアには、「(日本で稼いだ巨額の資産は)何ひとつ私に残されていなかった」と告白し、ファンにも衝撃が走った。

 そして、約20年間の韓国でのブランク…。

 ヨンジャは、「50歳以下の韓国人ファンは誰も私のことを知らない。『お母さんがファンだったけど』なんて言われたくらい。日韓両国で愛される歌手になりたかったけど、2つ同時は中途半端になるので韓国での仕事はやめた。20年間は日本を中心に活動してきたのだから仕方がありませんが…」と振り返る。

「日本の歌」はダメ

 もうひとつ、韓国での難しさは、日本でヒットした日本語の持ち歌を歌えないことだった。

 韓国における、日本の大衆文化(音楽、映画、漫画など)の開放は1998年以降、段階的に進んだが、地上波のテレビでの日本ドラマなどは、いまだに解禁されていない。日本語の歌は、ケース・バイ・ケースだが、歌いづらい雰囲気に変わりはない。

 さらに、日本と韓国ではファンにウケる曲調も違う。韓国では演歌でも、強く、押しつけるようなメロディーがウケるから、いきおい歌い方も強くなる。一方の日本では、ちょっと引いて、感情を抑えて、優しく歌うのがいい。

 「自信をもって韓国へ帰ったつもりだったのに、ふたを開けてみたらそうじゃなかった。キム・ヨンジャは過去の人で、日本の歌も歌えない…。歯がゆかったですね。ゼロからの再スタート。最初のころは本当に苦労をしましたね」

 ところが、2013年に吹き込んだ、ひとつの曲が再び、ヨンジャをセンターに呼び戻す。『アモール・ファティ』である。

若者世代に支持されて

 歌の題名は、ドイツの哲学者ニーチェの言葉で「運命愛」の意味。《年齢は数字 心は真実》《恋愛は必修 結婚は選択》といった歌詞や、テンポのいいリズムとトロット(韓国演歌)のメロディーが心地よい。

 火がつき始めのは、レコーディングから3、4年後のことだ。まず韓国の若者世代に支持が広がり、今や、400万ダウンロードを記録する大ヒット。幼い子供たちからお年寄りまで、幅広い年齢層のハートをキャッチしている。

 「キム・ヨンジャの名前は知らなくても『アモール・ファティ』は知っているという人が多い。テーマがよかったのかな。『自分を大事に、人生は一度だけ、年齢は数字でしかない、結婚は選択、恋愛は必須』などという今ふうの言葉が、ハマったんでしょうね」

 韓国での再ブレーク。実は日本での経験が生かされている。演歌だけでなく、いろんなジャンルの歌にチャレンジしたことで、『アモール・ファティ』のような難しい曲もすんなり歌うことができた。

 「最初に日本へ来たときは、演歌以外は歌えなかった。違うジャンルにも挑戦するよう、日本の皆さんが育ててくれた。ミステイクばかりで、時間がかかっても応援してくれたんです。その経験がなかったら『アモール・ファティ』は歌えなかったでしょうね」

 それにしても、驚くべき再ブレーク。これが、ヨンジャの「底力」というべきか。

 「沈んだと思ったら、浮かんだり…。いろんなことがあったけど、全部、忘れましたよ(苦笑)。私は過去を振り返らない、執着しない。苦労を苦労と思ったこともありません。元来が楽観的なのです。今日がんばったら明日がある、未来もある。前へ前へですよ」

日本での「再々起」

 6月25日、川崎市の「カルッツかわさき」で、日本デビュー30周年、と銘打ったコンサートを行う。同時に、新曲『北のウミネコ』(池田充男(みつお)作詞、徳久広司作曲)をリリース。今度は、日本での10年ぶりの「再々起」を目指す。

 くしくも、新曲をレコーディングしたのは4月1日、新元号「令和」が発表された日だった。再々起にふさわしいタイミング。

 「みんなで、すごく盛り上がってね…。でも正直、怖(こわ)いですよ。めちゃくちゃ緊張しています。この10年間、あまり日本では活動をしてこなかったからね。ちゃんと歌えるかな、歌詞が出てくるかなって。長い間、待ってくれていた日本のファンには申し訳ない気持ちでいっぱいですよ」

 コンサートでは、日本語の歌詞を入れた『アモール・ファティ』や、平成13年の紅白歌合戦で歌った『イムジン河』はぜひ、プログラムに加えたいという。

 現在、日韓関係は最悪だ。ヨンジャのモットーは「政治と歌は関係がない。歌は国境を越える」。本人にそのつもりはなくとも、歌の力によって、日朝韓の橋渡し役を務めてきたことは疑いようがない。

 「微力だけど、それができたのはとてもうれしいこと。日本で活動したいもうひとつの理由は『パイプの役目をしたい』から。こんなに、たくさん応援してもらった韓国歌手はほかにいないでしょ。私は幸せものですね。だからこそ、歌手・ヨンジャとして日本でもがんばらないといけないと思ってます」

(文化部 喜多由浩)=おわり

 キム・ヨンジャ(金蓮子) 1959年、韓国全羅南道出身。81年、韓国で『歌の花束』が大ヒット。1980年代後半以降、日本をベースに活躍。2009年以降は、再び韓国に戻り、一昨年から『アモール・ファティ』が大ヒット、再ブレークを果たした。

 日本語の歌詞を組み込んだ『アモール・ファティ』や『朝の国から』を収録した30周年記念アルバムCD『キム・ヨンジャ ベストレパートリーズ』(日本クラウン)を発売中。

 キム・ヨンジャ デビュー30周年コンサートは、6月25日(火)午後2時と同6時からの2回公演で、川崎市の「カルッツかわさき」で。問い合わせは045・243・9999サウンドポートへ。