朝晴れエッセー

母の目に涙・4月29日

娘が第2子を出産することになり、孫娘を預かることになった。しかし、わが家には要介護の母がいて、認知症が進んでいるため、とうてい両方の面倒は見られない。そこで母を施設のショートステイにお願いした。

10日後、母は車いすに乗って帰宅した。歩けていた足が萎(な)えて、立つことができない。目は虚(うつ)ろで無表情、体はバランスを崩して左に傾き、食べ物がのどを通らなくなっていた。あまりに変わり果てた姿にショックを受ける。

入所前の説明で「ベッドが中心の生活になります」とは聞いていた。滞在中に「ボーっとして様子がおかしい」という電話もあった。限りある時間と人材の中で、できる限りのお世話をしてもらっていたとは思うが、母から生気が消えているように感じた。

なんとか蘇生(そせい)させようと、毎日、頭から足の先までマッサージを開始する。ひたすら肩をもんでいたそのとき、ふと母を見ると、目が潤んで真っ赤に充血していることに気がついた。母は泣いていたのだ。記憶の奥底で、ひとりにされた寂しさがこみ上げてきたのではないか。

お昼寝から目覚めると、生き返ったようなすがすがしい顔で「あんたの肩をもんでやったこと一度もなかったなあ」とつぶやいた。そこにはわが家に帰った安堵(あんど)の表情が浮かんでいた。さあ元気を出して一緒にリハビリを続けよう。

山下 久美子 63 大阪府枚方市