朝晴れエッセー

ご近所さん・4月28日

今年の春も庭の片隅で、妻の背丈ほどに抑えている桜桃(おうとう)の木に白い桜が咲いている。座敷の妻によく見えるように障子を少し開けておく。

この花が落ちて葉が萌(も)えるころには、薄緑色だったサクランボが真っ赤に熟れる。それを狙って小鳥たちがやってきて、あっという間に鳥たちに丸裸にされてしまう。そこで木に網をかぶらせた年、妻が庭で悲鳴を上げた。「お父さん、大きい鳥が!」

見ると、両手に余るくらいの鳥が網に身体を絡ませてぐったりしている。鳥に詳しくはないが、これはモズだろうと思った。以前、この木の枝にカエルが刺さっているのを見たからだ。「モズの速(はや)贄(にえ)」といい、肉食のモズは獲物を木に刺しておく残虐な習性を持つと知っていたからだ。

「かわいそうだから早く何とかしてやって」。急いで網から助け出し、ホレと空に離してやると、そそくさと飛び立った。

翌年、また網かけをしようとすると妻が「どうせ食べきれないし、鳥さんたちが喜んでくれるなら、それでいいやんか。鳥もこの町ではご近所さんよ」と笑った。それもそうだと網は1年でやめた。妻はこの町で育った。妻には鳥たちでさえ親しいご近所さんだったのだ。

今年もまた、ご近所さんたちの井戸端会議の声が庭にあふれ、桜桃の根元は彼らが吐き出す種でいっぱいになる。そんな風景を妻は大好きだった。もうすぐ百か日を迎える写真の妻が、優しく庭へほほ笑みかけている。

相野 正 69 堺市美原区