老舗企業~かながわ~

番外編 川崎の和菓子店「住吉」

 ■大師門前に100年 伝統の「久寿餅」

 「あっ、久寿餅(くずもち)だ!」。みやげの手提げ袋を受け取った人が思わず顔をほころばせる。川崎市内に長く住む人は、その黄色い袋の中身が老舗和菓子店「住吉」の名菓「独鈷(とっこ) 久寿餅」だとすぐに分かるようだ。「久寿餅」が入った袋はずっしり重く、手渡されたときの喜びもまた大きい。

 大正6年創業。川崎大師(平間寺)の門前町に店を構え、関東大震災(同12年)や川崎大空襲(昭和20年)などでの被災を経て、一昨年12月に創業100年を迎えた。

 同店4代目の森明弘社長(51)によると、その人目を引く色の袋包みは昭和50年代前半に採用。「『倖(しあわ)せを呼ぶ黄色い包み』のフレーズとともに、地元で長く親しまれてきました」としている。

 久寿餅は川崎大師の名物として知られ、境内周辺には3社5店舗が軒を連ねている。まんじゅうやもなかなど、各種の和菓子を扱う住吉にとっても、久寿餅は創業当時から扱ってきた看板商品で、森社長は「腹持ちが良く、お年寄りから子供までおいしく食べられます」と胸を張る。

 久寿餅自体はほぼ無味だが、何もつけずに口にすると、自然の原材料に由来する甘みと、発酵に使われる乳酸菌のかすかな酸味が感じられる。食べ方は、同梱の黒蜜やきな粉をかけるのが定番。餅はプルプルとした弾力があり、しっかりとした歯応えが心地よい。味や食感に嫌みがなく、つい、次々と口に運んでしまう。

 ◆「葛餅」とは別物

 その名称から、葛粉を使った菓子と思われがちだが、住吉を含む川崎大師周辺で売られる久寿餅はいずれも小麦のデンプンが原材料。葛粉は全く使っていない。「関西と違い、特に県内や東京都内では、小麦粉が原材料のものを指すことが多い」(森社長)という。

 川崎大師久寿餅組合によると、名称の由来は江戸時代に遡(さかのぼ)る。小麦の産地だった川崎で、久兵衛という人物が、雨にぬれて損じた小麦を水に浸して納屋に長期間放置したところ、デンプンが沈殿しているのを発見。蒸すとおいしい餅ができ、天保の飢饉(ききん)のときに重宝したという。以後、川崎大師名物として広めることにした際に、久兵衛の1字を当てたというわけだ。

 当初は葛餅の代用という意識が強かったようだが、味や食感の改良が重ねられ、久寿餅は地域独自の菓子として進化を遂げていったようだ。

 ◆製造に1年以上

 久寿餅は発酵させた小麦粉のデンプンを蒸してつくる。住吉のこだわりは添加物を一切使用しないこと。岐阜県や山形県から仕入れた小麦粉を1年以上地下水に浸して発酵させ、沈殿と攪拌(かくはん)を繰り返す「さらし」という作業を約1週間続けて不純物を取り除く。その後、熱湯に混ぜ入れて型枠に流し、蒸し上げる。

 商品は厚さ約2センチ、13センチ角の餅を2~8枚入れて販売。正月のピーク時には、2枚入りだけでも1日当たり約3万箱売れるという人気ぶりだ。本店のほか、JR川崎駅構内、同駅東口地下街、インターネットでも購入できる。

 日々、商品開発や品質向上の努力を重ねている。「切るのが手間だ」という声を受け、平成28年からは一口サイズに切り分けて販売。併設の喫茶店では、久寿餅とソフトクリームなどをコーンに乗せた「久寿餅サンデー」が人気商品となっている。

 川崎大師観光協会の専務理事も兼任する森社長は「川崎大師という観光名所を食の面から盛り上げたい。浅草のような楽しい街を目指している」と目を輝かせている。(外崎晃彦)

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 ≪住吉≫

 本店所在地は川崎市川崎区大師町4の47。大正6年12月創業で、営業時間は午前8時半から午後5時。定休日はなし。問い合わせは同店本店(044・288・4437)。

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