主張

露朝首脳会談 多国間交渉認められない

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がロシアを訪れ、ウラジオストクでプーチン大統領と初の首脳会談を行った。

 2月末に行った2度目の米朝首脳会談が物別れに終わったことを受け、北朝鮮が中国に加えてロシアにも対米交渉の「後ろ盾」の役割を期待したのだろう。プーチン氏は「非核化は段階的に行うべきだ」と述べ、北朝鮮の立場に理解を示した。貿易や人道分野での協力拡大にも意欲を表明した。

 金委員長は3度目の米朝首脳会談に意欲を示している。だが会談開催に向けて必要なのは中露を頼むことでなく、完全非核化への行動を自ら起こすことだ。

 プーチン氏は会見で6カ国協議について聞かれ、北朝鮮が求める「体制の保証」は「多国間で行う必要がある」と答えた。だが多国間の枠組みが機能しないことは、過去の非核化交渉が示している。2008年に中断したままの6カ国協議は失敗例でしかない。

 北朝鮮を除く5カ国のうち、日米韓と中露で意見が一致せず、北朝鮮は足並みの乱れにつけ込んで時間を稼ぎ、「核凍結」の約束を破って核開発を続行した。

 現在の米朝交渉は経済制裁を中心とする強い圧力を背景に、トランプ米大統領がトップ同士の交渉を進めている。多国間交渉の泥沼に戻してはならない。

 中国もロシアも北朝鮮の核武装を認めていないはずだ。国連安全保障理事会決議にある通り、北朝鮮に対する核・弾道ミサイル放棄の要求は国際社会の総意である。制裁の環(わ)を乱すような交渉は非核化を妨げるものだ。

 ロシアがいま、交渉に絡んでこようとする姿は、自身の存在感誇示や、米国の交渉への妨害行為としかみなせない。

 重要なのは、中露、日本を含む全ての国が制裁を厳格に履行し圧力を緩めないということだ。

 この点で日本の外交姿勢にも疑問がある。

 外務省の外交青書から「北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていく」「国際社会の圧力をテコとして、拉致問題の早期解決を迫っていく」との表現が削除された。これが適切といえるか。

 拉致問題解決に向けた戦略なのだろうが、この問題は米朝交渉でも一貫して議論されている。北朝鮮への過剰な気遣いは交渉への悪影響しか及ぼさない。

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