主張

ウクライナ新政権 露につけいる隙与えるな

 隣国ロシアにクリミア半島を奪われ、軍事介入も受けるウクライナの大統領選で、新人のコメディアン、ゼレンスキー氏が現職に大差をつけて当選を決めた。

 現政権下での経済低迷やエリート層の腐敗体質が、国民の失望を招いた結果なのだろう。

 だが、厳しい対露姿勢を貫いてきた現職と対照的に、ゼレンスキー氏が対話路線を打ち出していることには危惧を覚える。プーチン露政権の不法行為を容認することに繋がらないか。

 プーチン大統領が厳しい対露姿勢を貫いてきた現職よりも御しやすい相手と考え、ウクライナを自国の勢力圏に引き戻す好機と捉える恐れがある。ゼレンスキー氏には、これを許さぬ毅然とした対露外交に徹してもらいたい。

 ウクライナでは2014年に親露派政権が崩壊し、親欧米派のポロシェンコ氏が政権に就いた。同政権は民主化と欧州連合(EU)との統合を目指しており、今回の大統領選でも、国民の大半は欧州統合路線を支持している。

 懸念するのは、ゼレンスキー氏に政治経験がなく、公約も漠然としていることだ。プーチン氏との対話でロシアとの問題を解決するというものの、その戦略を具体的に示しているわけではない。

 ロシアは14年、南部クリミア半島に特殊部隊を投入して半島を併合し、東部の親露派武装勢力を支援して紛争をたきつけた。サイバー攻撃や情報宣伝、特殊部隊や民兵などを組み合わせた「ハイブリッド戦争」の先駆けである。今後もさまざまな手段でウクライナに圧力を強めるに違いない。

 ゼレンスキー氏は、平凡な教師が大統領に選ばれて汚職や新興財閥と戦う人気ドラマで、主役を演じた。現実はドラマのように甘くないことを認識すべきである。

 ロシアのウクライナ介入は主権国家に対する侵略行為である。ロシアが一方的にウクライナから手を引いて当然であり、ウクライナが妥協する余地などない。

 次期大統領は民主的選挙で選ばれた責任を自覚し、改革の歩みを確かなものとすべきだ。民主主義の定着と経済的繁栄こそがロシアに不法を改めさせる力となる。

 ロシアに北方領土を不法占拠されている日本は、ウクライナが正しい道を歩むよう支援する必要がある。これは今後も変えてはならぬ基本的な立場である。

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