新聞に喝!

危ないトランプ歓迎論 インド太平洋問題研究所理事長・簑原俊洋

国家の分断を政治力の源泉とし「熱烈な支持者による、熱烈な支持者だけのため」の政治に固執して、国益よりも自らの個人的利益を優先させる〈異次元の大統領〉ドナルド・トランプ氏。大国が衰退期に差し掛かると、かつての大英帝国がそうであったようにリーダーの質も低下するとよく言われる。だが、まさかここまで一気にレベルが下がるとは予想だにしなかった。

にもかかわらず、日本の紙面をにぎわす一部の保守論客はとにかくこのトランプ氏が大好きなようで規範を破壊する彼の行動をもろ手で歓迎する。しかし、民主主義と自由主義の価値観に基づく公共財を提供する責任感を喪失させたアメリカは、世界にとって大きな不幸をもたらすのは間違いなく、日米関係をも揺るがす結果を惹起(じゃっき)するであろう。

権力に魅了されるトランプ氏は、ポピュリズムが生んだ疑似的皇帝である。ゆえに彼はかつてのローマ帝国の皇帝のように、「パン」と「サーカス」を巧みに駆使して支持者を満足させる欺瞞(ぎまん)の政治に徹している。21世紀の「パン」は〈雇用〉であり、「サーカス」は連日の破天荒なツイートや成果の乏しい北朝鮮との首脳会談、あるいは国家非常事態宣言を強行してメキシコとの国境の壁を建設するとの威嚇、あるいは不法移民を「聖域都市」と呼ばれる不法移民に寛容な都市に送り込むとの脅迫などだ。

地政学の父である英国人のハルフォード・マッキンダー(1861~1947年)は、ローマもビザンチンも外との繋(つな)がりを忌避し、内向きになった時点で衰退を一気に加速させたと説いている。筆者のトランプ評が厳しいのは、彼が確実にアメリカの衰退を加速させると確信しているからに他ならない。

翻って日本。アメリカが先の帝国のように、このまま国力を漸減させていけば、日米同盟はどうなるのか。アメリカがさらに内向きとなって世界に対する責任感を放棄した場合、日本が直面する安全保障の現実が今より格段に厳しくなるのは論を俟(ま)たない。

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