サイバー領域でも高まる中露の脅威 日米安保条約5条で抑止力強化

 日米両政府が、米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約5条をサイバー攻撃にも適用すると確認したのは、サイバー領域で高まるロシアや中国の脅威に対し、抑止力と対処力を強化する必要があると判断したからだ。

 「悪意あるサイバー活動が、日米双方の安全および繁栄にとって一層の脅威となっている」

 日米外務・防衛担当閣僚による安保協議委員会(2プラス2)後の共同発表では、サイバー空間における強い危機感が示された。

 ロシアや中国は、対象国の重要インフラや通常兵器を無力化することが可能なサイバー攻撃能力の増強を進めている。2014年のクリミア危機では、ロシア軍が最新鋭のサイバー装備を投入し、ウクライナ軍の組織的戦闘力を無力化することに成功。3倍の兵力差をはね返して圧勝し、近代戦におけるサイバー能力の重要性を証明した。中国軍でもハイレベルなサイバー部隊が確認されている。

 こうした事態を受け、政府は昨年末に策定した新たな防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」で、サイバー反撃能力の保有を掲げた。ただし、本格的な能力を獲得するまでには時間がかかる。眼前の脅威に対応するには、米国の関与を明確にする必要があった。外務省関係者は「5条適用で日米の連携は前進し、抑止力も高まった」と評価する。

 今後、サイバー攻撃による被害が日本の施政下で発生し、国の存立が脅かされるなど武力行使の3要件を満たせば、自衛隊は自衛権発動の下、米軍とともに対処することができる。

 課題もある。サイバー攻撃を日本への武力攻撃と認定して自衛権を発動するには、相手が「国」や「国に準ずる組織」である必要がある。大規模なサイバー攻撃であっても、相手がテロリストや企業などでは発動できない。そもそもサイバー攻撃は相手の特定自体が難しいのが実情だ。どのようなケースで安保条約第5条が適用されるのか、政府は検討を進めている。(石鍋圭)

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