各地の自治体がサイクリングを通じた地域振興を競う中で、和歌山の取り組みが勢いづいている。和歌山県は全域に約800キロのサイクリング道を整備。和歌山市では今年3月に自転車振興シンポジウム「全国シクロサミット」が開催され、首長(知事、市町村長)ら200人以上が集って交流や意見交換を深めた。サイクリング誘致では後発だった和歌山が、全国をリードする存在感を示しつつある。強力に後押ししているのは、地元選出の有力政治家、二階俊博氏という。
議連会長に就任
「自転車を活用して国民の皆さんの健康を向上させたり、みんなで自転車用の道路の活用を考えるのは素晴らしいことだ」
昨年11月、東京都内で開かれた「自転車を活用したまちづくりを推進する全国市町村長の会」設立総会で、二階氏は壇上からこう呼びかけて首長らの喝采を浴びた。
二階氏が自転車政策をリードする存在になった背景には、2つの大きな縁があった。
一つは、谷垣禎一・元自民党総裁の後を継いで超党派による「自転車活用推進議員連盟」(自転車議連)の会長に就任したことだ。政界一の自転車愛好者でコレクターとしても知られた谷垣氏は2016年7月、サイクリング中の事故で頸椎損傷の重傷を負い、17年の衆院選を機に政界を引退。議連会長は二階氏が引き受けた。
折しも、国会ではサイクリングブームを受けて16年12月に自転車活用推進法が成立し、17年5月に施行。さらに同法に基づき、18年6月に自転車活用推進計画が閣議決定された。自転車が政治・行政のテーマとなる重要な時期に、谷垣氏に代わって関係機関をとりまとめられたのは二階氏の貢献が大きかった。
政治家の原点
もう一つの縁は1970年頃にさかのぼる。二階氏が政治家になる前、国会議員秘書時代にサイクリング道の整備に関わっていたことだ。
二階氏は61年から72年まで遠藤三郎・元建設相(故人)の秘書を務め、政治のいろはを学んだ。その遠藤氏らが尽力し、70年に議員立法で「自転車道整備法」が成立。73年には、千葉県から和歌山県まで6県・千数百キロを結ぶ「太平洋岸自転車道」の整備がスタートした。
当時、二階氏は永田町で各議員の事務所を回り、議案の調整に奔走したという。二階氏自身、「自転車道路を作る問題には、秘書をしているころから携わっているので感慨深い」と語っているように、サイクリング振興は政治家としての原点だった。
その後、太平洋岸自転車道の整備は中断したまま長らく放置されていたが、昨年、突如として復活。2020年の東京五輪・パラリンピック開催を機に、訪日外国人の利用増を目指すとし、今年3月には新たなロゴマークも決定した。
和歌山市の関係者は「二階先生が整備を推進されている。和歌山は起点になるので、名を上げるチャンス」と意気込んでいる。
受け入れ体制を整備
3月23日に和歌山マリーナシティで開かれた「第1回全国シクロサミット IN 和歌山」は、「自転車を活用したまちづくりを推進する全国市町村長の会」が主催した。本来なら、瀬戸内海の愛媛・広島を結ぶ「しまなみ海道」でサイクリングによる街おこしに成功した愛媛県今治市などでの開催が想定されたが、関係者によると、太平洋岸自転車道の復活など二階氏の貢献も考慮し、和歌山開催案でまとまったという。
シクロサミットでは、世界最大の自転車メーカー、台湾・ジャイアント社の羅祥安(トニー・ロー)最高顧問が講演し、自治体に自転車文化推進室などの組織を作ることなどを提案したほか、サイクリストとして知られるエッセイストの一青妙(ひとと・たえ)さんが、女性へのサイクリング普及などを呼びかけた。
翌24日に開かれた県主催の「わかやまサイクリングフェスタ2019」にも、大勢の首長らが出場し、自転車を走らせながら交流を深めた。
和歌山県は2年前からサイクリングによる観光誘致を本格展開してきた。しまなみ海道で盛り上がる愛媛・広島両県や、びわ湖を抱える滋賀県などを追いかける立場だが、今ではサイクリング大会が増え、サイクリストを受け入れる宿泊施設や商業施設も拡大し、「サイクリストの数は目に見えて増えている」(県観光連盟)という。
和歌山市もシクロサミット開催を機にサイクリング振興を図っていく方針で、「今年度は推進計画策定やサイクリスト受け入れ体制整備に取り組む」(市政策調整課)としている。
「いい自転車ないかな?」
民間から自転車の振興策を提言しているNPO「自転車活用推進研究会」の小林成基理事長は、「二階さんは自転車の政策にものすごく詳しい」と評価し、信頼を寄せる。
最近、二階氏は、若い頃に和歌山市から新宮市まで2泊3日でサイクリング旅行をしたと懐かしそうに話した。
そして「いい自転車はないかな?」と、再びサイクリングをする意向を漏らした。今年80歳を迎えた二階氏に対し、事故の危険などを心配して周囲が制止すると、「谷垣さんみたいに(自転車を)飾っとくんだよ」と嬉しそうに笑みをこぼしたという。(上野嘉之)