マーケティング要素となった「デジタルウェルネス」
しかし、だまされてはいけない。
一見すると、革命は勝利に終わったように見える。だが、これはスマートフォンの画面を植民地化するための戦争の始まりにすぎない。
グーグルやアップル、フェイスブックといった企業たちは、注意散漫を誘うデヴァイスからユーザーを解放する鍵を引き渡したように見える。しかし、これらの企業は実際にはもっと重要な何かを勝ち取った。テック企業はこのムーヴメントを取り込み、「デジタルウェルネス」をトレンドに変え、マーケティングとして機能させているのだ。
フリーダム(Freedom)のCEOフレッド・スタッツマンは、「運動はこの1年で大きく前進しましたが、どれだけやるべきことがあるかも教えてくれました」と話す。同社は、アプリやウェブサイトをブロックすることで、画面を見る時間を管理する手助けをしている。
「わたしたちはいま、デジタルウェルビーイングがマーケティングに利用されるという厄介な状況にあります。企業が開発するツールは、ブランドイメージを向上させ、過去の罪を償うための手段に見えるのです」
われわれは「有意義な時間」の意味を誤解している?
グーグルとアップルは比較的簡単に実施できる対応をした。
例えば、通知を切れるようにしたり、端末がユーザーの注意を引く回数をできるだけ減らしたりといったことだ。各アプリの使用時間はiOSとAndroidの両方で簡単に追跡できるようになっており、使用時間に上限を設けることもできる。
しかし両社とも、こうしたアプリがもつ「人の注意を引きつけるデザイン」の改良に取り組んでいるとは言い難い。また、両社の取り組みは以前からユーザーがスマートフォンの設定を2、3点変えるだけで達成できたものでもある。
つまりグーグルとアップルは、「デジタルウェルネス」という旗印を掲げただけなのだ。これらの企業はスマートフォンの中身を大きく変えることなく、すでに存在したツールをパッケージし直したというわけである。
「『有意義な時間』とは、制限時間を設定する機能を追加することではありません。企業たちが繰り広げるゲームそのものを変えることなのです」とハリスは話す。
「問題は、あらゆる人が時間という言葉に引きずられ、『有意義な時間』という言葉の意味を誤解していることです。まるでテクノロジー最大の功罪が、時間の損失であるかのように捉えられてしまっています。わたしは最初のTEDトークで根本的な問題は何かを明示しました。そもそもの問題は、わたしたちの頭の中を乗っ取ることを目的とした競争が繰り広げられていることです。そんな競争が起こる原因は、ビジネスモデルが人々の時間を奪取することで成り立っている点にあります」