朝晴れエッセー

叶わぬ願い・4月12日

朝、洗面所で顔を洗い、化粧水、乳液、クリームを塗り、仕上げは、とっておきの「魔法の粉」。秘密の呪文を唱えながらパフではたく。「べっぴんさんになあれ」

友人に勧められ、去年10月に購入した。大体、1年ぐらいもつそうだが、私のは、もう底が半分以上も見えている。塗り過ぎなのか、塗る面積が広すぎるのか、わからないが。とにかく1年はもたない。

「肌に透明感が出て、しみもシワも薄くなる魔法の粉よ。そうそう、『きれいになあれ』って言いながらつけるとより効果的よ!」。友人の言葉に、「今さら別に…」と、苦笑しつつも私の瞳はしっかりそのコンパクトをロックオンしていた。

翌朝さっそく、パフにたっぷりと魔法の粉をつけ、まず頬に。そして、あご、額と順にのせる。恐る恐る鏡をのぞくと、口角がきゅっと上がり、眉間のシワも薄くなったみたいで、いつになく和やかな表情の私がいた。

昔、アニメの主人公が持っていた、呪文を唱えると変身できるコンパクトが欲しくて、何度も母にねだり、ようやく街のおもちゃ屋で買ってもらった。その帰り、バスを待つ間私は我慢できず、包みからコンパクトを出し、緊張しながら開いて、そっと呪文をつぶやいた。「テクマクマヤコン、お姫さまになあれ」

5歳の私には、なぜ変身できないのかわからなかった。叶(かな)わぬ願いと知りながら、私はいまだに秘密の呪文を唱え続ける。

堤下 桜 55 主婦 兵庫県川西市