経団連が、電力システムに関する提言をまとめた。火力発電所に依存する現在の電源構成に警鐘を鳴らし、遅れが目立つ原子力発電所の再稼働を推進するよう求めた。
また、原発の技術開発や継続的な投資を促すため、原発の建て替え(リプレース)や新増設を国の政策として明確に位置づけるべきだと指摘した。
原発をめぐる政府の曖昧な姿勢をただすものである。併せて、再生可能エネルギーの導入拡大に向けて送配電網の整備も訴えた。
電力の安定供給は暮らしや産業の基盤である。これが揺らぐようでは国が立ちゆかない。提言を主導した中西宏明会長(日立製作所会長)が「このままでは安定供給体制が崩壊する」と強い危機感を表明したのは当然だ。
政府はこの提言を厳しく受け止めねばならない。そのうえで官民挙げて実現を目指すため、具体的な取り組みを加速させたい。
東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故を受け、全国で原発が相次いで運転を停止した。その後、原子力規制委員会による新規制基準が策定されたが、安全審査の遅れなどにより、これまで再稼働した原発は全国で9基にとどまっている。
再稼働の遅れで、火力発電に対する依存度は8割に高まった。震災前から大きく上昇しており、温室効果ガス排出を削減する世界的な潮流に逆行している。石炭火力も環境問題を背景に銀行が融資に慎重姿勢をみせており、新設計画が相次ぎ撤回された。
経団連の提言は厳しい電力事情を憂慮したものだ。原発や石炭火力などの基幹電源に対する投資の縮小が今後も続けば、安定電源の確保は難しくなる。原発の新増設を含め、政府に電源投資を促すように求めたのもこのためだ。
温室ガスを排出しない太陽光などの再生エネも普及しつつあるが、その発電量は不安定で、コストも割高である。また、各地域に分散立地されており、再生エネによる電力を需要地に供給する送配電網の整備も課題である。電力市場に参入した新電力を含め、広く負担する仕組みを考えたい。
電力自由化に伴い、来年4月には大手電力会社の発電部門と送配電部門を切り離す「発送電分離」が実施される。政府はこれが安定供給を脅かさないよう、制度設計の再点検も進めてほしい。