野球がぜんぶ教えてくれた 田尾安志

周囲に認められたイチローの努力

アスレチックス戦で声援に応えるイチロー=東京ドーム(撮影・甘利慈)
アスレチックス戦で声援に応えるイチロー=東京ドーム(撮影・甘利慈)

日本のプロ野球と米大リーグで史上最多の通算4367安打をマークしたマリナーズのイチローが引退した。野球ファンにとどまらず、多くの人に愛されてきた名選手がユニホームを脱ぐ瞬間は特別なものだ。

最後の出場となった3月21日のアスレチックス戦。東京ドームでの試合で感動的だったのは、イチローがベンチに退く際にファンや仲間に示した表情だ。「やってきた努力は間違ってなかった」。そう言っているように思えた。

右翼の守備位置から退くイチローを、満員の観客はスタンディングオベーションで送った。ベンチではチームメート一人一人が名残惜しそうにハグを交わし、労をねぎらっていた。

思い出したのは、楽天の初代監督を務めた2005年のこと。最後の指揮となった福岡でのソフトバンク戦後に選手たちから胴上げされた場面が、脳裏によみがえった。球団創設1年目のチームは、シーズン38勝97敗1分け。パ・リーグの最下位で監督を退くことになり、僕は胴上げされることを断った。それでも、選手たちは「自分たちの気持ちです」と言ってくれた。それが、うれしかった。

イチローは昨年5月に選手登録を外れて球団の会長付特別補佐となってからも、チームに帯同して練習を続けてきた。真摯(しんし)な姿を誰もが認めていたからだろう。東京での試合で安打を放つことはできなかったが、周囲は敬意を表していた。引退会見で、イチローは「野球人生で一番印象に残った日はきょう」と口にしたが、本音だと思う。

イチローの姿から学ぶべきなのは、試合に臨む前の準備の大切さ。プロの世界で28年も第一線でプレーできたのは、そこに尽きる。