習政権は「アメとムチ」の社会統制 九州「正論」懇話会でアジア経済研究所の江藤名保子副主任研究員講演

九州「正論」懇話会で講演する江藤名保子氏(村本聡撮影)
九州「正論」懇話会で講演する江藤名保子氏(村本聡撮影)

 福岡市中央区のホテルニューオータニ博多で8日に開かれた九州「正論」懇話会の第141回講演会。日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の江藤名保子副主任研究員は、中国の習近平政権が共産党統治の維持へ、社会統制を引き締めていると指摘した。講演の主な内容は次の通り。 

                   ◇

 中国は、国際社会で強力なイニシアチブを発揮しているようにみえますが、内面では、さまざまな問題を抱えています。

 中国の視点に立つと、共産党統治の維持が最重要課題です。もう一つは2020年ごろまでに「全面的小康社会」をつくること。「これだったら住みやすいかな」と思える状態を、全国に広げる。それには経済の安定的な発展や、脱貧困が不可欠です。習近平国家主席にとって、支持を得るための重要なテーマです。

 それから、大国としての中国の位置づけです。

 国際社会から「立派な大国だ」と認めてもらいたい。中国の主張に理があることを認めてほしいと考えている。

 習氏は昨年から、中国には「特徴ある民主主義」が存在すると、盛んに言っている。選挙制度に基づくものではないが、民意をくみ取る「協商民主」だと主張している。

 ただ、こうした狙いは、困難に直面しています。国内では習氏への個人崇拝などへの批判が、断続的にみられる。国際的には「異質過ぎる」「力による秩序の変更を進めすぎ」との声があります。

 こうした中で、中国国内では社会統制がより厳しくなっている。新疆ウイグル自治区の強制収容が問題になっていますが、それだけではありません。

 反スパイ法や反テロリズム法など「法治」が強化された。多くの人権派弁護士が拘束され、香港のNGOも規制を受けるようになった。

 また、大きな問題になりつつあるのが、新しいテクノロジーを用いた社会統制です。AI(人工知能)を用いた顔認証システム「天網」があります。広範囲に監視カメラを設置し、AIでデータベースに照合させるといった手法が採られています。

 社会信用システムと呼ばれるものもあります。対象の人間にポイントを付け、点数が良ければ生活面でメリットがあり、悪ければ罰則を受ける。例えば、犬の散歩でマナーが悪い人は減点され、犬を取り上げられる。研修を受けるなどすれば、犬を返してもらえる。

 ただ、習氏をはじめ共産党政権は、厳しく民衆を管理すると同時に、民衆の支持を得ないといけない。

 そこで、宗教やNGOに対して、合法的なものは認めて活動を奨励し、違法なものは取り締まるという「アメとムチ」の政策を取っています。ただし、「ムチ」として関係者を拘束するなどの対応は、人権侵害と見なされかねない点です。

 国際的には「一帯一路」政策があります。

 中国は相手国や世界経済に貢献していると主張する。これを完全に否定することはできない。中国の主張の誤りや誇張を峻別し、行動を正しく評価することが、これから重要です。

 もう一つ、世界に大きな影響を与えるものとして、テクノロジーの開発競争があります。

 中国は昨年、米国を上回る数の衛星を打ち上げました。この狙いはなにか。衛星測位システムの実用化、将来的にはユーラシアハイウェイの自動運転を目指す、との見方もあります。

 ただ、中国は「軍民融合」の政策です。中国の技術は安全保障と密接な関係がある。ところが、テクノロジーの安全保障すなわち軍事への転用について、国際的なルールづくりが追いついていない。

 規制は事前につくるべきだが、あまりにも技術開発の展開が速すぎて、議論が追いつかない。このあたりは、今年から来年にかけての大きな課題になっていくと思います。

会員限定記事会員サービス詳細