朝晴れエッセー

「ちょっとおじさん」・4月5日

スーパーマーケットの酒類販売の棚には焼酎だけでも30種類が並ぶが、迷わず手に取るのは同じ銘柄と決めている。

学生時代は運動部で心身の鍛錬(たんれん)に励み、試合に勝利すると祝勝会。善戦むなしく敗れると景気づけと称してどんぶり酒で深酒をしても平気だった。就職してからは顧客さまの接待で酒宴の席に出る機会も多かったけれど定年が近づくにつれ独りぼっち、居酒屋で焼き鳥や鯣(するめ)で一息入れる。

人間ドックの結果、医師からたばことアルコールをやめるよう指示されてこれ以上の無茶はできないと自問自答。思案の末に体質には焼酎が合うようで梅干し入りのお湯割で晩酌を楽しんでいる。

レジで支払いを済ませボトルを3本マイバッグに入れていると、「ちょっとおじさん」。周りは主婦ばかり、誰かが私を呼んでいる!

振り返ると50歳代の御(ご)婦人が「其(そ)の焼酎はおいしいのですか?」。突然の問いに一瞬間をおいて「私にはこれが一番おいしいですよ」と返答した。御婦人は友人に焼酎を勧められたものの、なんの銘柄にしようか迷っていたという。一度に3本のボトルを袋に入れていた私の様子に、「唐突に声をかけてしまって御免なさい!!」。

いいえいいえ、此(こ)の年齢になっておじさんと呼ばれてとてもうれしかったよ。そして同じ銘柄の嗜好(しこう)品を愛飲する人が増えるかもしれないと思うと心がときめき、ほっこりしながら自転車で家路についた。

宮本 忠典 74 大阪府松原市