主張

欧州の対中戦略 結束乱れる危うさ認識を

 欧州で自らの勢力圏拡大を図ろうとする中国にどう対応するか。欧州の対中戦略は世界の経済や安全保障にも影響する重要な意味を持つ。

 だが、中国の習近平国家主席による訪欧で明確になったのは、対中国で足並みをそろえられない欧州の現実である。

 欧州連合(EU)の欧州委員会は、中国を貿易や技術開発の「競争相手」とする見解をまとめ、中国への警戒感をあらわにした。実際、フランスやドイツではそうした見方が多い。ところがイタリアや中・東欧諸国は、むしろ対中接近を図っている。

 EUの結束どころか、分断が深まるようでは危うい。経済、軍事上の覇権を追求する中国が、EU各国を切り崩しながら膨張主義を強めることに懸念を覚える。

 欧州に求めたいのは、目先の経済利益に踊らされず、日米と連携して中国に厳しく対処する姿勢である。その認識を共有し、結束を取り戻せるかが問われよう。

 マクロン仏大統領は習氏に「EUの結束を尊重するよう望む」と求めた。イタリアが中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に協力する覚書を結んだためである。EU内の旧共産圏諸国なども覚書を結んでいるが、先進7カ国(G7)ではイタリアだけだ。対米関係で苦境に立つ中国には成果である。

 問題は、これを機に一帯一路が再び勢いづきかねないことだ。一帯一路は、相手国を借金で縛る手法への批判が世界中で相次いでいる。欧州でも中国の手に落ちたギリシャ港湾などが軍事利用されることに警戒がある。そうした懸念が強まることにならないか。

 反EU機運が高まる中、イタリアのように経済が停滞する国が中国に傾斜する流れが強まれば、EUの求心力は一段と弱まることにもつながりかねない。

 域内では第5世代(5G)移動通信システムでも対応に温度差があり、欧州委員会は米国が求める中国の華為技術(ファーウェイ)の一律排除を見送った。それが米欧の溝を際立たせてもいる。

 留意すべきは、EU域内のみならず、日米欧がばらばらに動けばどこを利するかである。日本は一帯一路に前のめりとなる一方、ファーウェイ製品の政府調達を事実上排除した。国ごとの違いを乗り越え対中戦略でどう連携できるか。G7の場で深めるべき重要なテーマだと認識しておきたい。

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