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青海省の省都・西寧郊外にある塔爾寺はチベット仏教の名刹(めいさつ)だ。中庭に僧らが集まって読経していた。100人以上いるだろうか。その背後に治安要員が立って彼らを凝視している。
境内には、監視カメラが約50メートルおきに設置されている場所もあった。真新しい監視カメラの下で、チベット族の女性たちが体を地面に投げ出す「五体投地」の礼拝を繰り返していた。
ダライ・ラマはチベットから完全に消えたのか。
「(寺院や僧の宗教活動は)当局によって監視されているからね。でも、庶民の家の中は大丈夫。私たちの精神的支柱だよ」と明かすのは、商店を営む40代のチベット族男性だ。
「これまで自分の力で生計を立てて頑張ってきた。習近平の写真を掲げる必要なんてあるかい?」
自宅の壁で「ダライ・ラマ14世」が笑っていた。
ダライ・ラマの故郷、青海省紅崖村で会った60代の男性はしかし、「チベットの(法)王なのに60年も帰ってくることができない。お会いしたい。でも、中国は帰還を認めないだろう」とあきらめ顔で話す。
亡命政府によると、統制を強める中国の政策に抗議するため焼身自殺を図ったチベット族は、この10年で150人を超えるという。
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ダライ・ラマ14世がインドに亡命してから今月30日で60年。28日には、チベット動乱を鎮圧した中国がダライ・ラマなきチベットの完全な統治を宣言してから60年になる。ダライ・ラマの帰還が一向に実現しない中、中国、インド、日本に生きるチベットの人々の現状を追った。