犯罪収益の出所や所有者を分からなくするマネーロンダリング(資金洗浄)の対策に国内の金融機関が頭を悩ませている。国際組織「金融活動作業部会」(FATF、本部パリ)による立ち入り審査を今秋に控え「マネロン天国」の汚名を返上できるかの正念場にあるからだ。厳しい結果が出れば国際的な資金取引から締め出しを食らいかねない。顧客の格付けや現金の持ち込み送金を受け付けないなど、対策が急ピッチで進む。
■戦々恐々
「基本的に現金で(海外送金に)来られるお客さんは一見客もかなりいる。そういう方については、これまで取り扱いをやめてきた」
全国地方銀行協会の柴戸隆成会長(福岡銀行頭取)は13日の記者会見でこう述べ、口座を持たない一見客による海外送金の受け付けを停止する動きが広がっていることを明らかにした。
そのほか地銀業界で作業部会を立ち上げ、成功事例の共有や制裁対象者リストの共同購入などを行っていることを紹介し、対策に「全力を尽くす」と強調した。
協会が警戒感を強めるのは、地銀がマネロン問題のトラブルメーカー扱いだからだ。2017年には愛媛銀行(松山市)が北朝鮮の関与が疑われる数億円の海外送金を見逃したとされており、対策が手薄な小規模店舗が標的にされやすい。
3メガバンクも現金による海外送金を取りやめる方向で準備しているほか、金融庁の要請を受けて、マネロンのリスクに応じた全顧客の格付けも進めている。
例えばある大手銀では、貿易業者や中古車販売業者など海外との資金のやり取りが多い顧客を「ハイリスク」と分類。6月から口座開設時に取引目的の質問事項を増やすなど、監視の目を強める。低リスクの顧客であっても送金時に詳しく内容を聞かれたり、一定額以上の送金を拒否されたりと不便が生じる恐れがある。
■迫る審査
金融業界が緊張感を高めるのは11年ぶり4回目となるFATFの対日審査が間近に迫るためだ。前回2008年審査ではマネロンに甘いと厳しく指摘され、11年4月の犯罪収益移転防止法改正につながった。ただその後も、14年6月にFATFから必要な法整備が遅れていると異例の声明を出され、同年11月に再び犯収法改正を余儀なくされるなど、対応が後手に回ってきた。
邦銀では外国人はカタカナ表記で口座を開設できるため、ブラックリストにアルファベット表記で載っていても検知されにくい。国内では日常的なテロの危機意識が薄く、監視を強化することで取引に時間がかかることに対し、顧客の理解を得にくいのも悩みの種だ。
全国銀行協会の藤原弘治会長(みずほ銀行頭取)は14日の記者会見で、銀行業界としてメディア広告用の共通マークを作成し、周知を進めていく方針を明らかにした。「お金を虫眼鏡で調べたら実は悪いお金だった」という主旨の図柄で、対策強化に理解を求める。