ロシアによる2016年米大統領選への干渉問題で、モラー特別検察官の捜査報告書は、トランプ陣営とロシアとの共謀を認定しなかった。
バー司法長官が、議会への概要報告で明らかにした。トランプ大統領の就任直後から米国を揺るがした騒動はいったい何だったのか。
そのような疑問は残るが、ロシアの介入をめぐる疑惑の核心について、2年近くの捜査に区切りがつけられたことになる。
トランプ氏は「完全無罪」と勝ち誇ることなく、揺らいだ政権の信任を立て直す契機としなければならない。野党民主党は報告書の全面公開を求めているが、捜査の結論は尊重すべきである。
米政権と議会が最優先で取り組むべきは、今回の捜査で改めて裏付けられた外国政府による選挙介入の再発防止と、傷ついた民主主義の信頼回復にほかならない。
報告書は、ソーシャルメディアで偽情報を発信する選挙妨害、クリントン陣営へのサイバー攻撃といったロシアの介入について、トランプ陣営がロシア側と共謀したり協力したりした事実を見いだせなかったと結論づけた。
モラー氏が特別検察官に就任した17年5月以降、疑惑は多方面に及び、大手メディアの報道は過熱した。疑惑を否定するトランプ氏との非難の応酬が激化した。民主党もトランプ氏への支持を減らそうと躍起になった。
浮き彫りになったのは、米政治システムの脆弱(ぜいじゃく)性と、米国内で深まる分断だった。サイバー戦を手段としたロシアの対米謀略は目的を達したというべきだろう。
不十分な証拠で「共謀」を決めつけた米メディアや民主党は混乱の長期化に手を貸したと言わざるを得ない。
無視できないのは、トランプ氏の司法妨害疑惑について報告書が「犯罪に関わったとの結論は下さないが、免責するものでもない」とした点だ。疑惑を打ち消したいあまり、司法当局に対する不当な言動があったのではないか。
今回の報告書の20年の米大統領選への影響ばかり論じるのは建設的ではない。ロシアや中国は次の干渉の機会をうかがっているはずだ。民主主義が外部勢力の干渉にいかにもろいか。不断の警戒と対策が必要であることを、米国をはじめ全ての民主主義国は肝に銘じるべきだ。