15~39歳頃までの思春期と若年成人(Adolescent and Young Adult)を指すAYA(アヤ)世代。この世代のがん患者には進学、就職、結婚、子育てなど、中高年とは違った課題が存在する。彼らは何を悩み、どう生きているのか。第1回は、がん患者のインタビューをインターネットで生配信するNPO法人「がんノート」代表理事の岸田徹さん(31)に聞く。(永井優子)
25歳でがん告知
社会人2年目の25歳の春、首に腫れ物ができました。近所のクリニックでは原因は分からず、会社の健康診断も異常なし。半年ほど過ごすうちにソフトボール大まで腫れが大きくなり、体調も悪くなった。いくつかの病院を経て、胎児性がんという希少がんで、胸やおなか、全身に広がっていると告知されました。当時の貯金は913円。治療費は親や友人に借りて乗り切りました。
抗がん剤でがんが縮小し、首と胸の腫瘍を取り除く手術の後、突然息ができなくなるハプニングがありました。死を覚悟したとき、社会に何か貢献したい-と強く思ったのです。ブログで闘病記を書き始め、ネット生放送にゲスト出演した体験をヒントに、「がんノート」に発展しました。
3つの特徴
AYA世代には3つの特徴があると思います。お金や性、家族、学校のことなど一歩踏み込んだ情報が不足していること。そして、ロールモデルとなるような人の情報が見つからないこと。個人のがんブログも、社会復帰したら更新が止まるなど、「その後」どうなったのか一番知りたいことが分からない。最後は、同じような境遇の患者さんに出会えない孤独感です。
「がんノート」はこれらの解消を目指しています。患者さんも体験を隠しているのではなく、出す機会がないだけ。インタビューで、将来の見通しとなるような患者さんの生身の姿を見てもらう。場所は違っても同じ時間でつながっている、孤独ではないと実感してもらうため、生放送にこだわっています。月2回ほど実施し、昨年12月には100回を数えました。
射精障害で絶望
僕自身、がん宣告よりもショックだったのは、手術で射精障害を患ったことです。子孫を残せないなら、男として生きる価値はあるのだろうか。医師に聞いても様子をみようと言われ、ネットを検索しても性に関して何の情報も出てこない。こんなにも絶望するのかと思いました。
数週間検索して、僕と同じ手術を受け、同じような後遺症を患った方の奥さんのブログを見つけました。メッセージを送ると、「3カ月で自然に治りましたよ」という返事があった。そこで初めて、長いトンネルの中に一筋の光が見えた気がしました。「治る可能性があるかも」「自分一人ではない」という前向きな情報が、がん患者には何より必要なのです。
妻とはお互いがん患者と知ってゴールインしました。後遺症は治っていませんが、最初の抗がん剤治療の前に、性機能への影響について説明を受け精子保存をしています。子供が持てるかどうか、これから夫婦で調べていきます。
岸田徹
きしだ・とおる 昭和62年、大阪府高槻市生まれ。立命館大を卒業後、東京のインターネット広告会社に就職。平成24年に胎児性がん、27年に精巣がんと告知される。26年にNPO法人「がんノート」(https://gannote.com/)をスタートし、28年に法人化。同法人代表理事。27年から非常勤の国立がん研究センター広報企画室員。厚生労働省のがん対策の検討委員なども務める。
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国立がん研究センターの推計によると、1年間にがんと診断されるAYA世代の患者数は、15~19歳が約900人、20代が約4200人、30代が約1万6300人の計約2万1400人。施設ごとの年間患者数調査では、15~19歳で2人、20~24歳で3人、25~29歳で8人、30~34歳で14人、35~39歳で22人と、全がん患者数の4%だった。
AYA世代で発症が多いがんは、10代が白血病、20代が胚細胞腫瘍・性腺腫瘍(主に卵巣、精巣がん)、30代が乳がんと多岐にわたり、これまで十分な支援が提供されてこなかった。昨年3月に策定された「第3期がん対策推進基本計画」の中で、初めてAYA世代のがんが明記され、がん医療の充実とがんとの共生の項目の中で、ライフステージに応じたがん対策が取り上げられた。