部下は2人。午前8時20分、新聞を読んだ後、その日の仕事の流れをイメージしながら準備を始める。まず社内SNS「チャットワーク」の「タスク(作業)管理」のページを立ち上げ、作業を確認。優先順位を判断しながら遠くの部下に仕事を分配していく。
◆対話が活性化
在宅勤務に向けた事前準備には1年をかけた。請求書の処理など定型的な業務は、部下に自動で仕事が割り振られるようにし、進捗(しんちょく)状況が誰にでも分かるように仕組みを作った。「業務の効率と生産性が高まった」という。
一方、羽原さんが不在になった当初は、部下との情報共有に時差や選別が生じ、小さな連絡ミスなどが多発した。「事態に気づいてからはメンバーが直面している疑問やトラブル解決を仕事の最優先事項にした。東京にいたとき以上に部下を気にかけている」と羽原さん。メールではくみきれない思いや悩みを理解するため、「(部下の)声のトーンで状況を判断したい」となるべく電話で話す。在宅ではできない業務で月に1~2度、出社する際は、「部下を飲みに誘うようにしている」という。
その工夫と思いは伝わり、部下の瀧水貴博さん(29)は「相談をまめにするようになったので、むしろ対話が活性化した」と話す。
◆国も「推進」だが…
在宅勤務を含むテレワークは、ワーク・ライフ・バランスの促進と、2020年東京五輪・パラリンピック開催時の混雑緩和策として推進機運が高まるが、導入率はまだ低い。
IT調査会社「IDC Japan」(東京都千代田区)によると、国内企業のテレワーク導入率は29年の推計値で4・7%。また国土交通省の調査(29年度)では、企業で働く3万6450人のうち「勤務先にテレワーク制度等あり」と答えたのは16・3%、会社の制度を利用してテレワークしている人は9%にとどまった。国は五輪開催の32年にこれを15・4%にするとの目標を掲げる。
テレワーク推進に必要なのは何か。実際、導入に踏み切ったUZUZ専務取締役の川畑翔太郎さん(32)は、「管理職から取り組むことで、部下も制度を利用しやすくなり、働きやすい環境づくりへの会社の本気度が伝わる」と話す。
在宅勤務の導入支援を行う「テレワークマネジメント」の田澤由利社長は、「テレワークは介護が身近な問題となる管理職世代も辞めずに済み、地方の優秀な人材の雇用もできて人材不足の解消にもつながる」と話している。
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≪編集後記≫
遠距離上司になってから、より部下を気遣うようになったと羽原佳希さん。職が「場」に縛られないからこそ、上司は部下と業務を常に気にかけ、部下は上司と意識的に情報共有するようになる。ポスト平成の上司は今よりもっと、コミュニケーション力が求められる気がしました。(津川綾子)