東西冷戦が終結して今年は30年の節目となる。しかし冷戦後の高揚感は冷め切ってしまい、新たな潮流として表れたのが民主主義の後退と、個人独裁の広がりだ。
ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領、ベネズエラのマドゥロ大統領、ハンガリーのオルバン首相、ポーランドのカチンスキ「法と正義」党首…など、数え上げれば相当数にのぼる。
国際NGO団体「フリーダム・ハウス」が2月に発表した『世界における自由 2019』の報告書は、「後退する民主主義」と明記し、民主主義の危機は世界レベルでパワーバランスの変化につながるとし、ポピュリスト勢力の台頭に警戒を示している。
1946年から20年間に民主主義体制が崩壊したケースの6割以上は軍事クーデターによるものだった。しかし、21世紀に入って、ポピュリストによる独裁化(権威主義化)が民主体制を崩壊させるケースが増え、その比率はクーデターと並ぶまでになっている。
スティーブン・レビツキー氏とダニエル・ジブラット氏(いずれもハーバード大学教授)は共著『民主主義の死に方』(邦訳・新潮社)で、現代の独裁者がどのように民主主義を破壊していくかを検証している。
それによると、かつての独裁者は、敵対者を国外追放したり殺害したりしたが、いまの独裁者は「合法性というベールのうしろに抑圧を隠そうとする傾向がある」と指摘する。すなわち、司法機関などを支配して対立相手を恣意(しい)的に罰し、訴訟によって報道機関を萎縮させ、選挙制度や憲法を変えて独裁体制を確立するのだという。
オルバン首相はメディアに高額な罰金を科す報道規制を強化したほか、憲法裁判所の権限を制限し、民主主義を「解体」していった。マドゥロ大統領は、昨年の大統領選で、有力野党の指導者の出馬を認めず勝利をもぎとった。