虎番疾風録

プロ初勝利は「鼻血V(ブー)」 其の二4

八回、鼻血が止まらず降板する巨人・江川(左は吉田捕手)
八回、鼻血が止まらず降板する巨人・江川(左は吉田捕手)

虎番疾風録 其の二3

6月17日、後楽園球場での広島11回戦。3度目の先発のマウンドに上がった巨人・江川は、いきなりシピンの15号ホーマーなどで3点の援護をもらうと快調にとばした。

7回を投げて3安打1失点。プロ初勝利、初完投まであと2イニング。ところが八回1死二塁のピンチを迎えたところで突然、鼻血がタラーリと出てきた。心配そうに駆け寄る吉田やシピン。ベンチからも長嶋監督が飛び出してきた。トレーナーが綿を丸めて鼻に詰めたり、首筋をトントン叩(たた)いたり。だが、鼻血は一向に止まらない。ついに「続投は無理」となり無念の降板。試合は鹿取-新浦とつないで勝った。

◇6月17日 後楽園球場

広島 000 001 000=1

巨人 300 000 02×=5

勝 江川1勝1敗 敗 北別府6勝4敗 S 新浦9勝2敗2S

本 シピン(15)(北別府)

「プロ初勝利…なにか早すぎるのではと思います」と江川の殊勝なコメント。翌朝の新聞の見出しは『江川鼻血V』-うまい!

同月22日、江川が大阪にやってきた。筆者は昼前から伊丹の大阪国際空港ロビーに張り付いていた。午後1時、巨人ナインを乗せた日航機が到着。ちょうど九州から帰ってきた修学旅行の女子高生たちと遭遇し「キャー」「キャー」と到着口は早くも大騒ぎ。警官5人にガードされて突破を試みようとする江川に今度は約20人のカメラマンが殺到した。悲鳴とフラッシュが渦巻く中で江川が叫んだ。

「そんなに写したって、ボクの顔は変わりませんよ~」。〈ようこんな状況で、憎まれ口をたたけるもんや〉と驚いた。

芦屋市の選手宿舎「竹園旅館」をバスで出発した巨人の選手たちは午後4時過ぎ、甲子園球場にやってきた。だが、三塁側アルプス席下にある選手通用門の前には約300人のファン。仕方なく、その横の検品所にバスごと突っ込んで無事、到着。グラウンドですでに始まった虎ファンの「エ・ガ・ワ・帰れ!」の大コールが聞こえてくる。

「甲子園はやっぱり懐かしい。投げられないのが残念ですけど…」

〈えっ、投げへんの?〉言葉通り3連戦で登板はなかった。それでも、次の日もまたその次の日も…筆者の江川マークは3日間続いた。(敬称略)

虎番疾風録 其の二5

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