ついに江川との対決の日がやってきた。巨人は2軍で調整を続けていた江川を1軍登録。6月2日の阪神戦に先発させたのである。
後楽園球場のスタンドは5万人の大観衆で膨れあがった。午前10時から当日券5千枚が売り出されアッという間に売り切れ。徹夜組は200人。「悪が栄えた~ためしな~し。君は必ず打たれま~す!」と、左翼スタンドからタイガースの東京私設応援団が、外野でウオームアップする江川をやじりまくった。いや、騒動はすでにその前に起こっていた。
午後1時25分、江川は合宿所からチームメートの車で球場に到着した。だが、関係者入り口にはすでに約500人のファンが待ち構えていた。その中には黄色と黒の縦じまの法被を着た虎ファンの姿も。「このままじゃ入れない。見つかったら江川が危ない」。一旦待機。そして球場職員がファンを整理する間隙(かんげき)を突き、「今だ!」と球団職員に囲まれるようにして入り口に突入した。
なんとか、ロッカールームにたどり着いた。だが、江川を待っていたのはロッカーの前にポツンと置かれた赤いバラの花束と菓子折り2箱。
「何だこれは」と球団職員が聞く。「女性ファンからの贈り物だそうです」と球場職員がその箱を取ろうとすると球団職員が叫んだ。「待て! もし爆弾だったらどうするんだ」「ええっ」。一時ロッカールームは大騒ぎ―。そんなこんなで試合が始まったのである。
◇6月2日 後楽園球場
阪神 000 100 400=5
巨人 020 010 010=4
勝 山本4勝2敗 敗 江川1敗
本 スタントン(5)(江川)シピン(11)(山本)若菜(3)(江川)ラインバック(6)(江川)中畑(2)(山本)
試合は巨人の2点リードで迎えた七回、阪神は1死から若菜が球威の落ちてきた江川の95球目を左翼へホームラン。さらに真弓の中前打、榊原の四球でつかんだ2死一、二塁からラインバックがストレートを右翼席へ逆転の3ランを放った。
ほろ苦いデビュー戦。だが、評価は高かった。「大したもの。頭のいい投手だと思うよ」と小林。そして長嶋監督も「これだけ投げれば十分。点数、うーん、70点でしょうか?」と笑った。翌日の大阪サンケイスポーツの見出しは『KOだ江川正体見たり』である。(敬称略)