4月10日、虎番の左方先輩に連れられて「阪神ベンチ」に入った。もちろん甲子園球場の一塁側ベンチには、センバツ高校野球の取材で何度も入った。だが、プロのベンチは別世界。
この日は広島から戻り、本拠地での開幕戦。相手は巨人しかも阪神の先発は小林。ベンチは評論家や報道陣でごったがえした。そんな中を「おはよう!」「ハーイ、ゴメンナサーイ」と、藤田や掛布ら縦じまのユニホームを着たタイガースのスター選手たちが、筆者のすぐ横を通ってグラウンドに出ていく。足が震え、ラインバックが日本語をしゃべっているのには驚かされた。
4月上旬のナイターはまだ寒い。分厚いコート、膝には毛布を巻いて記者席に座った。だが、スタンドは熱い。「阪神のピッチャーは小林」と場内放送されると3万8千人の大観衆から「ウオオオ」と地鳴りのような歓声が起こった。
◇4月10日 甲子園
巨人 000 111 000=3
阪神 010 300 00×=4
勝 小林1勝 敗 加藤1敗 S 池内2S
本 若菜(1)(加藤)張本(1)(小林)ラインバック(1)(加藤)中村勝(1)(加藤)
試合は四回、ラインバックの左翼2ランと中村勝の本塁打で阪神が3点のリードを奪う。だが、四回ですでに70球を超えていた小林は五回に張本に一発を浴び、六回にも1失点。そして八回1死から中畑に左前安打されたところで竹田と交代した。
「巨人打線はそれほど怖いとは思わなかった。ただ、こっちの気が走ってしまって…。球数が多くなって苦しかった」。139球、被安打12の初勝利。小林はうれしそうに汗を拭った。
実はこの試合で筆者はある発見をしていた。試合前の練習で小林がキャッチボールの際も、投球と同じフォームで投げているのを見たのである。妙に気になった。そして後年、小林にこのことを尋ねると…。
「オレは普通のキャッチボールができないんだよ。あのフォームじゃないと、どこへ飛んでいくかわからん」
――コバさん、からかってます?
「本当の話だよ。長年あんな投げ方をしてたから、上から手首をつかってヒョイと投げられなくなったんだ」
そういえば、小林の一塁送球はいつもぎこちなかったし、走ってベースを踏んだことも…。大発見だった。(敬称略)