決裂に終わった米朝首脳会談で、トランプ米大統領は金正恩朝鮮労働党委員長に対し、拉致問題についての安倍晋三首相の考え方を伝えた。
夕食会の席では2人の首脳間で、拉致問題についての真剣な議論が行われたのだという。
いずれも、トランプ氏が安倍首相に電話で伝えた。詳細は明らかにされていないが、これを受けて安倍首相は「次は、私自身が金正恩氏と向き合わなければならないと決意している」と述べた。
この機を逃してはならない。
安倍首相と金正恩氏による日朝首脳会談を開催し、「拉致問題の解決なしに北朝鮮は未来を描くことはできない」とする日本の固い意志を突きつけ、被害者全員の帰国を実現させてほしい。
米朝の会談が不調に終わり、制裁が継続している今こそ、拉致問題を動かす好機である。
拉致被害者、横田めぐみさんの母、早紀江さんは米朝会談について「変なところで妥協してほしくなかった」と述べた。
米朝が安易に歩み寄り、経済制裁が緩和されることこそ、最も懸念されていた。米国から譲歩を引き出せなかったことで、北朝鮮は追い詰められている。
日本は、拉致問題の具体的な進展がなければ一歩も動かない。一切の見返りを与えない。この原則を金氏に納得させることでのみ、被害者の帰国に結びつけることができる。
米朝首脳会談では、北朝鮮で拘束され、帰国直後に死亡した米国人大学生、オットー・ワームビアさんのことにも言及があった。
トランプ氏によれば、「(金正恩氏は)この件を残念に思っていた。後になって知ったと言っている」という。実情はともかく、直接会談の席で金正恩氏から言質をとるのは可能ということだ。
北朝鮮のような独裁国家を動かすには、トップの決断が不可欠である。
平成14年、当時の小泉純一郎首相が訪朝し、金正日国防委員長との直接会談で拉致被害者5人の帰国を実現させた。背景には、北朝鮮を「悪の枢軸」と批判する、ブッシュ米政権の圧力があった。
北朝鮮の若い指導者が国際社会の仲間入りを果たしたいのであれば、拉致問題の解決は避けて通れない。その説得は、安倍首相の責務である。