老朽マンション、住民高齢化で建て替え進まず

団地住人の追加負担額の比較例
団地住人の追加負担額の比較例

 国民の8人に1人が住むとされる分譲マンションの老朽化が深刻だ。全国の約644万戸のうち築30年以上が約185万戸と約3割を占める。昭和56年5月以前の旧耐震基準の建物も約104万戸あるが、居住者らの権利を定める「区分所有法」や住人の高齢化の影響で合意形成が難しく、修繕や建て替えもままならない状態だ。居住環境だけでなく、地域社会に悪影響を及ぼしかねず、事態を重くみた自治体は相談窓口を設置するなど対策に乗り出している。(吉国在)

 高度経済成長とともに昭和30年代から都市部を中心に本格的な建設が始まった分譲マンション。一般的に築30年を超えると、外壁や給排水管に傷みが目立ち始め、安全性に課題が出たり、生活にも支障を及ぼしたりする恐れがあるとされる。

 建て替えるか、大がかりな修繕が必要となるが、そこには区分所有法の壁がたちはだかる。住人らでつくる管理組合による建て替え決議には、全世帯(区分所有者)の5分の4以上の賛成が必要だが、国土交通省によると、これまで建て替えに至ったのは準備中を含めわずか274件(平成30年4月時点)にとどまる。背景には、老朽化と比例する居住者の高齢化がある。年金生活で月々の修繕積立金の支払いが困難な高齢の住人がいる中で、1戸あたり必要となる費用の負担が大きくなり、建て替えや大規模修繕への同意を得るのが難しいケースが多い。

 国は、老朽化マンションの建て替えを円滑に進めるため、建て替え前後の権利関係の移行など必要な手続きを定めた「マンション建替え円滑化法」を平成14年に施行。だが、建て替えは進んでおらず、防災面や防犯面での悪影響を懸念し、独自に対策を進める自治体もある。

 東京都は、専用相談サイトで「マンション管理士」の派遣や助成制度といった支援策を紹介するほか、昭和58年末までに建設したマンションに対し、管理状況の届け出を義務付ける条例案を議会に提出。大阪市は平成28年度から建て替えや修繕などマンションの再生に必要な検討費に補助金を出す制度を設けた。

 経済ジャーナリストの榊淳司(さかき・あつし)氏(56)は、「現状の区分所有法がある限り多くのマンションは廃虚化の道をたどらざるを得ない」としたうえで、「危険な集合住宅に対して、使用の停止や解体などの手続きがすぐに取れるよう、行政が介入しやすい仕組みを早急に整えるべきだ」と指摘している。

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