安倍晋三首相はトランプ米大統領との20日夜の電話会談で、会談の3分の2を北朝鮮による拉致問題に費やした。今月末の米朝首脳会談を前に、首相が拉致問題を集中して訴えたのは、トランプ氏が安易な融和ムードに流されないようくぎを刺す狙いもあった。
トランプ氏は米朝会談での拉致問題の提起を確約したが、そこには外国首脳で最も濃密な信頼関係を築く首相のしたたかな戦略があった。
「私とトランプ氏がいかに密接か、向こう(北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長)は分かっている」
首相は会談後、周囲にこう語った。「トランプ氏に一度にいくつも言ってはだめだ。今までの経験でわかっている」とも話した。
複数の政府高官によると、トランプ氏は約30分間の会談中、3回ほど「シンゾーの問題は私の問題だ」と繰り返した。「絶対、シンゾーの思いは伝える。約束する」とも話した。
北朝鮮の非核化をめぐり、首相はトランプ氏に対し、1994年の米朝枠組み合意や2000年代の6カ国協議などが失敗した経緯を踏まえ、北朝鮮が具体的な措置を示さない限り制裁緩和には応じない考えを何度も説明してきた。
強固な日米同盟を背景に米国務省など複数の米政府当局者との協議は「かつてないほど頻繁に行っている」(外交筋)。一方、拉致問題は首相が政治生命をかけた最重要課題で「首相の思いは首相にしか話せない」(同)というわけだ。
河野太郎外相は21日夜、ポンペオ米国務長官と電話会談し、記者団に「核、生物・化学兵器を含む大量破壊兵器のCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)とあらゆる射程のミサイルの廃棄に向け日米はずっと連携しており、方向性はぴったり合っている」と語った。