話の肖像画

NHK元アナウンサー・鈴木健二(90)(1)「老後」は75歳からでいい

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〈「NHKの視聴率男」と異名をとった元看板アナウンサー。卒寿を迎えてますます意気盛ん。言うことにもホネがある。何しろNHK時代から「食事の時くらいテレビを消しなさい!」って主張していた人だから〉

そう、クビになる覚悟で新聞のコラムに書きました。せっかく家族一緒に食事をしているのに、会話をすることもなく、みんながテレビの方を見ている。これじゃ、いけません。反応ですか? 賛同してくれる人も少しはいましたが、局内外から批判の嵐。「テレビを消したら、その時間分の受信料は返してくれるのか」なんて言ってくる人もいましたがね。

今や、テレビがスマートフォンやゲームに替わりました。みんながみんな、会話するでもなく始終、端末の画面ばかり見ているでしょ。「歩きスマホ」もやめてもらいたいですね。まず危険。杖(つえ)をついている私など、危なくてしようがありません。何度ぶつかってこられたことか。それに、あの格好はみっともないですよ。ずっと前かがみの姿勢で、電車の中などで通常の2倍近いスペースをとっている。邪魔になっていることにも気付かない。

私はね、昭和の時代に電機メーカーの研究所の方から携帯電話の原型を見せられたことがあるのです。「これが未来の電話ですよ」って。そのとき私はこうお願いしました。原子力がまさしくそうであったように、「技術の進歩は人間に『幸福』をもたらすけれど、『悪』となる側面も持っている。だから、そのことを徹底的に議論してから実用化してください」と。残念ながら私の予感は当たってしまったようです。

〈NHK定年後、選挙の出馬や民放、企業などからのオファーをすべて断り、熊本県立劇場、青森県立図書館の館長として、村おこしや障害者と健常者のコンサートの開催など「公益性」の高い仕事を続けてきた〉

(NHKの)36年間、ひとの4倍、5倍も働いて最後はテレビのシーラカンスと呼ばれました。退職時「NHK始まって以来の退職金です」と言われて渡された金額を見たら1ケタ足りないんじゃないか、って聞いたくらい(少なかった)。送別会はなし、見送ってくれる人もゼロ。同僚と酒を酌み交わしたこともなかったし、私には、一人の友達もいなかった。人の役に立つ仕事なんて何一つやっていなかったことにも気付きました。